第39話 お祭り
執務室に戻ってきたレオンさんから正式な養子縁組の書類をもらったので、晴れて私はユーリ・クジョウ・オーウェンになりました!
貴族の養子縁組ってもっと時間がかかりそうだけど、レオンさんがお兄さんである王様に頼んでくれたの。
アルゴさんいわく、普段全然頼ってこない弟の頼みに凄く張りきったんじゃないかな、って事なんだけど……。もしかして、アレス王国の王様って、ブラコンだったりして。
ゲームでは対立してたはずだから、やっぱりここはゲームの世界とは違うのかなぁ。
凄く似てるけども。
午後になると、イゼル砦の中庭には様々な屋台が並んでいた。
いつもは騎士としてキリッとしている皆さんが、少し気の緩んだ様子で屋台の品物を選んでいるのは、ちょっと微笑ましい。
屋台には串焼きとか食べ物系の他に、果物のジュースとかイゼル砦の食堂では見たことのない食べ物をたくさん売っている。
私はアマンダさんに手を引かれながら、キョロキョロと周りを見回す。
あの串焼き、何のお肉だろう。一番人気はホーンラビットのお肉かなぁ。
あっちはルコのジュースと……。その横で売ってるのは何だろう。黄色いから、う~ん……バナナ?
「うわぁ。夏祭りみたい」
思わず呟くと、アマンダさんが「夏祭りって?」っと聞き返してくる。
「毎年、夏になると踊ったり屋台でおいしいものを食べたりするお祭りです」
近所で一番大きいお祭りは、有名なお寺のものだ。
参道から本殿まで、屋台がびっしりと並んでいて、一軒だけあるつきたてのお餅屋さんできな粉餅を食べるのが楽しみだったんだよね。小さい頃はよく、綿あめを食べて顔も手もベタベタにしちゃってたっけ。
「踊りはないけど、おいしいものはたくさんあると思うわ。ちょっとしたお土産になるような物も売っているから、後で一緒に見ましょうか」
「はいっ。なんだかワクワクしますね」
キョロキョロしながらそう言うと、アマンダさんは「はぐれないようにね」と言って、しっかりと手を繋ぎ直してくれる。
えへへ。アマンダさんって、本当に私のお姉さんみたい。
嬉しくなってぎゅっと手を強く握ると、アマンダさんは赤い瞳を細めて、柔らかく微笑んでくれる。
「ユーリちゃんは何か食べたいものはある? 果物のジュースなんかはお勧めよ。……あら? あの人混みは何かしら」
アマンダさんの視線を追うと、中庭の隅の方に人だかりができていた。
「何でしょうね?」
凄くいい物を売ってるのかなと期待しながら見に行ったけど、人が多くて背の低い私には何があるのか分からない。
「見えないわね」
アマンダさんにも見えないんだから、私に見えるはずもないよね。
でも、気になるなぁ。
そんな私の心の中の呟きが聞こえたのか、ノアールがピョンと私の腕の中から飛び出す。いつも頭の上に乗せているプルンは、素早く私の腕に移動していた。
「ノアール?」
「にゃあん」
まるで、「ちょっと見てくるね」と言うように鳴いたノアールは、騎士さんたちの足元を縫うように走る。
しばらくしてから帰ってきたノアールは、「にゃあんにゃあにゃあ」と説明してくれた。
うん。かわいい。
でも、ごめんね。何を言ってるか分からないかも……。
う~ん。戦闘中だったら結構、意思の疎通ができるんだけどなぁ。
「ユーリちゃん。ノアールは何を言ってるの?」
「えーっと……」
「にゃあにゃあにゃあ」
ノアールが私の腕に登ってきて、前足をプルンにテシテシと当てる。
「プルンがどうしたの?」
「にゃあん、にゃあにゃあ」
ノアールはさらに前足をテシテシとプルンに当てる。
「う~ん?」
ノアールが何を言いたいのか分からずに首を傾げていると、何度もノアールの前足を当てられたプルンが、当たるのに合わせてぷるるんぷるんとリズミカルに揺れるようになってきた。
ノアールもそれにつられて一緒に遊び始める。
てしてしてし。
ぷるるんぷるん。
てしてしてし。
ぷるんぷるるん。
「う~ん。何か言っているのかもしれないけど、よく分からないわね」
「……そうですね」
「気にはなるけど、混んでいるしまた後で来ましょうか」
アマンダさんに促されて立ち去ろうとしたその時。
「フランク神父。もういい加減になさったらいかがでしょうか」
という声が聞こえた。
あれっ。ここにフランクさんがいるの?
そして今のは……ちょっといつもよりも声が低い気がするけど、シモンさん?
二人とも、ここで何をしてるのかな?
「さあ、次のレースが始まるぞ。
って、今の声はもしかして――カリンさん!?
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