第35話 うちの子になる?

「クルムが、もしユーリちゃんを鑑定できていたとしたら、困ったことになるわね」

「ああ。あのレーニエ伯爵がどう出るか……」


 ダメダメ。

 今は装備の事より、レーニエ伯爵の事を考えなくちゃ。


 装備は――まだ装備できないし、アイテムボックスの中に入れておけば大丈夫だよね? 今までも大丈夫だったんだし。

 装備できるレベルになったら、その時に考えようっと。


「レーニエ伯爵って、そんなに凄い人なんですか?」


 不安になって聞いてみると、アマンダさんは眉間に皺を寄せる。

 あう。美人さんがそんな顔をしちゃダメですよぅ。


「王国で最も裕福な貴族と言われているわね。魔鉱石の産地だものね」

「魔鉱石ですか?」


 魔石なら分かるんだけど、魔鉱石って何だろう?


「魔石が強い魔物の心臓だっていうのは知ってる?」


 アマンダさんに聞かれて頷く。

 長い年月を生きた魔物や変異種の心臓は、なぜか死ぬと魔石になってしまうのだ。ゲームでも強い魔物を倒すと『赤い宝石』とか『青い宝石』をドロップして、それが武器とか防具の素材になっていたから、同じ物の事を言ってるんだと思う。


 ただ、ゲームとは違って魔石には属性はないみたい。ゲームだと『赤い宝石』は炎系で『青い宝石』は水系になっていて、作る装備によって必要な宝石は決められていたけど、この世界では魔石の大きさと質だけが重要みたい。


 魔の氾濫でレオンさんが倒したゴブリンキングの魔石は人間の頭くらいの大きさだったらしいけど、それでもそれほど力をつける前に倒したから小さい方だったんだって。


 八年前に倒されたアンデッドキングの場合は倒されるまでにとんでもなく強くなっちゃってたから、凄く大きい魔石だったみたい。

 魔物の王がドロップした魔石は、全部神殿が保管してるんだって。いつか見てみたいなぁ。


「魔鉱石は一見ただの石なんだけど、魔力を蓄えることができるの。つまり、劣化版の魔石になるって事ね」


 それって、電池みたいなものかな?

 確かに、それがレーニエ伯爵の領地でしか採れないんだとしたら、凄いお金持ちになれるよね。


「元々、魔鉱石を発見したのは、鍛冶をする時に使える鉱石を求めて旅をしていたドワーフだったんですって。それでレーニエ伯爵の領地では、ドワーフ族の研究者は優遇されているの」

「だからクルムさんはアーティファクトの研究をするのに、レーニエ伯爵のところに行ったんですね」

「ええ。レーニエ伯爵が趣味と実益をかねて将来有望な人材を集めているのは、有名な話だもの」


 ふむふむ。

 優秀な人材が集まって、さらに領地が豊かになるって事かぁ。あんな狸みたいな顔してるのに、人は見かけによらないって本当だね。


「だからユーリちゃんの事を知ったら、絶対に取りこもうとするだろうね」


 アルゴさんが腕を組んで難しい顔をする。


「そうね。ユーリちゃんはまだ小さいから、雇うのは無理だし……。考えられるのは、身内として取りこむ、ってところかしら?」

「……確か、ちょうどいい年頃の息子がいたな」

「ええ。十三歳だったかしら。まだ婚約者はいないはずよ」


 えーと。それはもしかして、私とそのレーニエ伯爵の息子さんが婚約するとか、そういう話なのでしょうか?

 えええっ。


「外堀を埋められる前にどうにかしないといけないね」


 どうしよう。いきなり知らない人と婚約なんて冗談じゃないです!

 でも、どうにかするって、どうすればいいんだろう……。


「あら。じゃあ私の娘になるっていうのはどう? そしたらあのしつこいレーニエ伯爵も私の事を諦めると思うわ。さすがに子持ちの女を伯爵家の嫁にはしないはず!」


 良い事を思いついたという風にポンと手を打つアマンダさんに、アルゴさんは深いため息をつく。


「アマンダ……。君のその年齢でユーリちゃんを娘にするのは無理があるだろう」

「そうかしら? それに子供には父親が必要だってゲオルグを説得すれば、ちゃんと両親が揃う事になるわ」

「――そっちが本音のような気がするな」

「そっ、そんな事ないわよ。ねぇ、ユーリちゃん。私の娘になる気はない?」


 キラキラと期待をこめて見つめられても……。妹ならともかく、私がアマンダさんの娘になるのって、かなり無理があると思いますぅぅぅ。


「ええと、アマンダさんがお母さんっていうのは、ちょっと若すぎるような気がします」


 だってアマンダさんは二十一歳で私が八歳だから、えーっと、十三歳の時の子供ってことになっちゃうもの。


「あら。早い子はそれくらいで子供を産むから大丈夫よ。何の問題もないわ」

「せめて妹にしたらどうなんだ?」

「それだと両親を説得するところから始めないといけないもの。時間がかかりすぎるわ」

「それもそうか……」

「だから、ねっ? うちの子にならないかしら?」


 アマンダさんの気持ちはとっても嬉しいんだけど、でも……。


「ごめんなさい。私はやっぱり、九條の家の子なので、他の家の子供になるのはちょっと。……本当にごめんなさい」


 だって、絶対に日本に帰るんだもん。

 九條の名前を変えると、日本に帰れなくなっちゃう気がするの。そんなの嫌だ!

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