第26話 スライム研究史上最大の発見?
「変わったスライムなんて、なかなか見つからないわねぇ」
アマンダさんが、目の前をぽよんぽよんと元気よく跳ねている緑のスライムを指さした。
う~ん。確かに緑と茶色のスライムならたくさんいるんだけど、他の色のスライムは見ないなぁ。
スライム農家によって増やされた透明スライムは、結界の外に出てから初めて食べた物によって変異しちゃうんだよね。
だから緑のスライムは葉っぱを、茶色のスライムは土を食べて変異したスライムなんだって。
ちなみにカリンさんのスライムは、聖水をかけて変異した子だから青いみたい。
未だに名前がついてないから、つけてあげればいいと思うんだけどなぁ。そうだ。オススメしてみようっと。
「カリンさんは、そのスライムに名前をつけないんですか?」
私はカリンさんの腰につけられている特製のスライムポーチを見ながら聞いてみる。その中にはあの青いスライムが入っているはずだ。
「……つけた」
「はい?」
カリンさんが、口の中でモゴモゴと何かを言ったけど、聞き取れなかったのでもう一度聞いてみる。
「もう名前をつけたと言っておるのだ!」
「そうなんですか? なんていう名前にしたんですか?」
わぁ。もう名前をつけてたんだ~。どんな名前だろう。
「マクシミリアン二世だ」
「――え?」
「どうだ。素晴らしい名前だろう?」
平らな胸を誇らしげに張るカリンさんだけど……スライムの名前にしては立派すぎるのではないでしょうか……。
「なにその名前。スライムっぽくないわ」
アマンダさんの指摘にみんなが頷く。
まるでどこかの王様みたいな名前だよね。
「スライムの生態を研究した魔物研究家の名前だぞ。知らぬのか?」
「……知るわけないじゃない」
そう言って、アマンダさんは手をひらひらと振る。
ああ、スライムの品種改良をした研究家さんって、そんな名前なんだ。
なるほど~。その名前を取って、こんなに立派な名前にしたのね。
「名前をつけると、かなり意思の疎通ができるようになるから良いですよね」
「なんだとっ!?」
急に私に迫ってきたカリンさんは、その勢いのまま私の両肩をつかんだ。
い、痛い! 痛いですから!
「にゃああああああ!」
私が痛がっているのに気がついたノアールが、私の足元から肩へと飛び乗って、カリンさんの手に爪を立てようとする。
「待ってノアール! 引っかいちゃダメだよ!」
ただでさえノアールは魔獣ってことで警戒されてるんだから、これくらいで怒っちゃダメ。
「にゃううう。にゃうにゃう」
抗議するノアールに、大丈夫だよと声をかける。
「す、すまぬ。つい興奮してしまった」
力を入れ過ぎた事に気がついたカリンさんが、私の肩から手を離した。
そこをすかさずアマンダさんが後ろから抱きしめてくる。
あ……。頭の上でアマンダさんのお胸様がぽよんってした。
「もうっ。ユーリちゃんはまだ小さいんだから、ちゃんと手加減なさいよね」
「申し訳ない。つい興奮してしまった。……いや、だが、これは興味深い」
腕を組んだカリンさんは、うーむと首を傾げた。それからおもむろに、人差し指で瓶底眼鏡をくいっと上げる。
「私が名前をつけても変化はなかったが、小娘のスライムには変化があったということか。……ふむ。私と小娘の違いは何だ? 異国の魔法を使うか否か、であろうな。では異国の魔法はエリュシアの民にも習得可能であろうか? ふむ。可能と結論づける。なぜならそこのエセ神官がヒール飛ばしを習得しておるからだ。……ということは、だ」
……エセ神官って、もしかしてフランクさんのことかな?
カリンさんって、もしかしてアマンダさん以外はあだ名で呼んでるとか……。ま、まさかね。
「よし、小娘。パーティーを組むぞ!」
手を差し出されて握手をさせられる。
だから、そんなにブンブンと手を振り回さなくても、ちゃんとパーティーは組めますから!
「小娘。パーティーは組めたか?」
「ちょっと待ってくださいね。パーティーウィンドウ・オープン」
私の言葉で、透明なウィンドウが開く。うん。成功してる。
「はい。大丈夫です」
私の言葉に、カリンさんは両手の拳を上げた。
「今まさに、スライム研究史上、最大の大発見の場に立ち会うのだぞ。皆、私に感謝するが良い!」
そして腰につけたポーチから、ぷるるんとした青いスライムを取り出すと、高らかに宣言した。
「マクシミリアン二世! 良いか、お前の名前はマクシミリアン二世だ!」
皆が注目する中、青いスライムがぷるるんと震えた。
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