ちびっこ賢者、がんばってます!

第25話 プロローグ

 魔の氾濫から一カ月も過ぎると、砦に集まっていた冒険者や王国騎士団の人たちは、それぞれイゼル砦を離れて行った。


 ここに残っているのは、フランクさんの無茶ぶりのせいでパーティーでの活動が無期延期になってしまった『黎明の探求者』くらいだ。


 リーダーのシモンさんが、フランクさんの代わりにイゼル砦で神官をやることになったから、活動停止になっちゃったんだよね。


 もっとも、そのおかげで獣人のヴィルナさんが私と一緒に迷宮探索に行ってくれることになったんだけど。


 残るメンバーのガザドさんはしばらくドワーフ共和国に戻って鍛冶に集中して、エルフのナルルースさんは活性化した魔の森の研究をするためにイゼル砦に残るみたい。


 あんまり自分の国から出ないエルフが砦に滞在するってことで、騎士の皆さんは色めき立ったみたいだけど、残念ながら、ナルルースさんのお眼鏡には適わなかったみたい。


 うん。なんかね。年下すぎるんだって……。


 た、確かにエルフの皆さんは長寿だって聞くけど、どう見ても十八歳くらいにしか見えないよ? ナルルースさんって、一体何歳なんだろう……。


 実はフランクさんが聞いてみたらしいんだけど、ナルルースさん自身にもよく分からないみたい。「まだ若木」って答えたそうだけど、エルフって木から生まれたの!?


「知らぬのか? エルフは花から生まれたのだ」

「花、ですか?」


 魔の氾濫が終わって、魔の森の手前のあたりにはそれほど強い魔物が現れなくなった。それで今日はカリンさんのスライム探索につきあっている。


 もちろん私とカリンさんだけだと危険なので、アマンダさんとヴィルナさんと、それからアルゴさんとフランクさんも一緒だ。

 これから土の迷宮に挑むメンバーになるんだけど、今から連携を取っておこう、という事らしい。


「一日目、神は大地に溢れる光から妖精族をお創りになった。

 二日目、神は大地に咲く美しい花からエルフ族をお創りになった。

 三日目、神は大地に輝く石からドワーフ族をお創りになった。

 四日目、神は大地を駆ける獣から獣人族をお創りになった。

 五日目、神は大地の豊かな恵みを持つ土から人族をお創りになった。

 六日目、エルフ族とドワーフ族と獣人族と人族が大地の覇権を争った。その時に大地に流れた血から魔族が生まれた。

 七日目、神は大地を巡って争う者たちの姿を見て嘆いた。その涙のしずくが大地に落ちて川になり森ができ、そこから魔獣が生まれた。」


 カリンさんの口から、朗々とした声が流れる。これって、頭にスライムの帽子をかぶってなければ、凄く絵になる光景だよね。


「創世記、ですよね?」


 カリンさんが口ずさんだのは、エリュシアオンラインのオープニングで流れる『創世記』の一文だ。それぞれの種族が生まれる様子を360度フルスクリーンの3Dで観れるそのオープニングは、凄く綺麗で何度見ても飽きなかった。


「うむ。神話だからどこまで本当の事かは分からぬが、エルフは自分たちの事を木に喩えるな。幼い頃はみな『小さき若葉』と呼ばれる」

「そうなの? 初めて知ったわ」


 アマンダさんがびっくりしたようにカリンさんを見る。アルゴさんも初耳だったらしく驚いているけど、さすがにナルルースさんと同じパーティーだったフランクさんとヴィルナさんは知っていたみたいで驚いていない。


「青年期になると『新緑の若木』と呼ばれる。ナルルースがそうだな。成人すると『堂々たる成木』になり、やがて『叡智の老木』となる」


 へ~。木シリーズで進化していくって感じなのかなぁ。おもしろいね。


「でも、同じ名前じゃ誰が誰だか分からなくなるんじゃない?」


 アマンダさんの疑問に、私も大きく頷く。


「エルフは名前に魔力を乗せることができるからな。それで呼び分けている」

「言霊(ことだま)ね?」

「うむ」


 おお。言霊ってエルフ独自の魔法じゃない!? ギルドマスターのセシリアさんがエルフだったから使うのを見たことある。植物を使って戦う魔法で、茨の鞭とか、凄く似合ってたんだよね。


 そういえば、中身はおじさんだったけど、女王様って呼ばれて一部の人たちに人気があったような気がする。

 懐かしいなぁ。


「その言霊でスライムを呼び寄せられないの?」

「それができたら苦労はせぬ!」


 アマンダさんの指摘に、カリンさんは口をへの字に曲げた。


 キュアでスライムを懐かせるというカリンさんの野望は、残念ながら失敗してしまったのよね。用意していたスライムたちは、みんな森の中に逃げちゃったの。残念。プルンの仲間が増えると思ったのに。


 プルンは、この間のスライム探しの時に私の仲間になった子なの。

 すっごく可愛いスライムなんだよ?


 ご飯はね、キャンディーとか甘いものなの。色は透明にたくさんの色が混ざってる感じ。色んな飴をあげていたら、こんな綺麗な色の子になったんだ~。


 カリンさんの連れている青いスライムも可愛いけど、うちの子も負けてないでしょ?


 でもカリンさんは聖水を飲ませて懐かせたスライム以外にも別のスライムを飼いたいみたい。

 なんでかっていうと、カリンさんのスライムよりうちのプルンの方が、ちゃんと私の言ってる事を理解してるから。


 でもね、それって私に従魔スキルがあるからじゃないかな、って思うの。

 ただ、カリンさんの言うように、キュアで懐かせたのと聖水で懐かせたかの違いかもしれないから、そこら辺はしっかり研究してくれるのを期待しちゃうな!


 でも、ぜ~んぶ、失敗しちゃったんだよね……。

 一応、イゼル砦にはまだ透明なスライムがいるけど、砦のお掃除役に必要だから譲ってもらえないみたい。こっそり持っていこうとして、食堂のおばちゃんに怒られてたのをアマンダさんが目撃したんだって。


 そこで、すっかりへこんだカリンさんを元気づけようと、みんなでスライム探しに誘ったってわけ。


 カリンさん好みの変わったスライムさーん。

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