第18話大発見です!

 午後からはとりあえずキュアで仲間になるかどうかの実験はお休みだそうで、私は野営地でアルゴさんたちとお留守番になりました。


 また川の水にキュアをかけて……たまに森の方にも飛ばしてみたけど、ノアールみたいな魔物はやってきませんでした。残念。


 あ、そういえば少しは戦闘したからLV上がってないかなぁ。


「ステータス・オープン」


 小さな声でステータスを開いてみます。




 ユーリ・クジョウ。8歳。賢者LV2。


 HP 176

 MP 165


 所持スキル 魔法100

       回復100

       錬金100

       従魔 1



 称号 

    魔法を極めし者

    回復を極めし者

    異世界よりのはぐれ人

    幸運を招く少女




 LVは上がってないけど、新しいスキルがあります!従魔です。


 タップしてみると、説明が出ました。



 従魔 魔物を従えるスキル 1匹の魔物を仲間にできる



 って事は、私はまだノアールだけしか仲間にできないって事かぁ。

 あれ、じゃあさっきまでの努力は無駄だったんじゃ……


 はう……知りたくなかった事実に、疲れが増しました。

 あんなにがんばったのになぁ。


 お水にキュアをかけた後は休んでていいってアルゴさんに言われたので、ちょっと色々考えてみる事にしました。もちろんお膝には子猫のノアールです。


 まず、ノアールがどうして従魔になったのか?

 やっぱり原因になってるのは、キュアを飛ばした事だよね~。それと多分、相性が良かったから。でも他にも何かあるのかな~?

 う~ん。

 それについては考えても分からないから、保留にしとこっと。


 で、次。従魔スキルをいつ所持したのか。

 ノアールを従魔にする前なのか、後なのか?

 でも、ノアールが従魔になるまでこんなスキルなかったんだから、やっぱりノアールを従魔にした事で所持したって事だよね。


 ただそこでも疑問が残る。私はゲームの世界の魔法を使うから、この世界にしかない、私の知らない魔法は使えなかったんだよね。


 たとえば生活魔法のクリーン。これはお風呂に入らなくても体を綺麗にしてくれるし、ちょっとした部屋の汚れなんかも綺麗にしてくれるという、とっても素敵な魔法だ。

 アマンダさんが使っているのを見て、私も覚えたくて教えてもらったんだけど、どーしても覚えられなかった。

 砦ではお風呂なんてなくて、たらいにお水かお湯を張って体を拭くくらいしかできないから、クリーンの魔法が使えると凄く便利だったのに……


 まあ、アマンダさんがクリーンの魔法かけてくれるから、いいんだけどさ。でも自分でも使いたかったのになぁ。


 他にもちょっと明かりをつけるライティングの魔法も覚えられなかった。


 だから、賢者がLVアップして覚える魔法以外の魔法は、覚えられないんだと思ってたんだけど……


 う~ん???


 クリーンの魔法と従魔のスキル。この二つってどう違うんだろう?


「分かんないね~、ノアール」


 ノアールの喉を撫でるとゴロゴロと気持ちよさそうな声を出した。

 可愛いなぁ。猫飼うの初めてだけど、こんなに可愛いんだなぁ。


 ……ん?

 初めて……?


 あ、もしかして……クリーンの魔法は既に存在してた魔法だけど、エリュシアオンラインにもエリュシア大陸にも従魔のスキルはなかった。つまり、従魔は初めて私が使ったから、だから覚えられたって事?

 じゃあ、新しい魔法なら、賢者特有の魔法じゃなくても覚えられるって事なのかな?

 

 おおおおおお。

 なんか凄い!

 新しい魔法とかすぐに思いつかないけど、なんか凄い気がする!


「ノアール、大発見だよ!」

「にゃあ!」

「なんかやる気が出てきたよ!」

「にゃあ、にゃあ!」


 ノアールをぎゅーっと抱きしめて喜びにひたっていたら、なんだか周りが騒がしくなってきました。


 どうしたんだろう?


 見回すと、騎士さんたちの一団が帰ってきたくらいで、別に何も変わった事はないけど……あ、帰ってきたのはフランクさんの班だったんだ。


「フランクさん、お帰りなさ…………い?」


 フランクさんを見ると、なんていうか苦虫を噛みつぶした顔の、お手本のような顔をしていました。

 一体、どうしたんだろ???


「あ~、嬢ちゃん。魔物を仲間にする方法な。なんとなく分かったぜ」

「そうなんですかっ。凄い凄い!」


 思わず両手を叩いて喜びましたが、フランクさんはあんまり嬉しそうじゃないような……?

 なんでだろ?やっと魔物を仲間にする方法が分かって、嬉しくないのかな?


「フランクさんが魔物を仲間にしたんですよね?どこにいるんですかっ?」

「あ~。嬢ちゃんには見えねぇか」


 フランクさんは、よいしょ、とノアールを抱っこした私ごと抱えると、昨日したみたいに肩の上に乗せてくれました。

 フランクさんのとうもろこしの髭みたいな、色あせた金髪がよく見下ろせます。


「あれ?」


 金髪の中にピンク????


 なんだろうと思ってよく見ると、小さなピンクのウサギが、フランクさんの髪の毛の間からぴょこんと顔を出してました。


「きゅうっ」


 え……何ですか、この可愛いの???





「それで……ぷっ。フランクがホーン・ラビットの群れに……ぷぷ。手当たり次第に、ぷぷぷっ。キュアかけてったら、その子がいきなり頭に乗っかってきたって事……?うぷぷぷっ」


 フランクさん、苦虫を噛みつぶしたような顔、続行中です。あれ?苦虫って噛むんだっけ、踏むんだっけ。まあ、どっちでもいいか~。


「アルゴ。笑いたいなら、笑やぁ、いいだろうが」

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。腹いてえええええええ」


 周りにいる人たちも、皆さん肩が震えてます。

 う……うん。まあ確かに、フランクさんの厳つい顔の上に、ちょこんと顔を出してる小さくてピンクなうさぎって構図は、なかなかシュールなものがありますよね……


「しっ、しかも変異種の子供とか……ピンクってありえねーーー。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


 アルゴさん……気持ちは分かるけど、笑いすぎですよぅ。


「ま……まあでも、それで魔物が仲間になる条件が分かったんだからさ、お手柄じゃん。ぷぷぷっ」


 そーなんです。アルゴさんの言う通り、フランクさんのおかげで、魔物が仲間になる条件が分かりましたー!


 ホーン・ラビットの群れを見つけたフランクさんたちは、まずは殺さずに網で捕獲したんだそうです。で、1匹ずつ網から出して、直接触れてキュアしたり、飛ばしたりして試しながら、キュアをかけていきました。


 そしてそのホーン・ラビットの群れの中にピンク色の子供がいたんだそうです。ホーン・ラビットは普通は白いので、一目で変異種だって分かったみたい。


 変異種は通常の魔物より魔力が強いので、念のため、近寄らずにキュアを飛ばしてみたら、いきなりきゅうきゅうと甘えるような鳴き声を出し始めたとか。

 で、網から出してみると、一目散にフランクさんの頭の上に乗っかって、またきゅうきゅう鳴きながら頭をこすりつけたんだそうです。


 思いっきり懐いてますね~。


 それで、魔物が懐くのには相性が良くないとダメっていうのが分かりました。キュアを飛ばさなくちゃいけないのかは、まだ結論を出すほどの実験ができてないから断言できないみたい。

 あと、魔物の子供っていうのも共通してるから、そこら辺も今後試していくんだって。


「キュアで魔物を鎮静化させるのは無理だが、懐かせるのはできるみてぇだよな。って事は、強い魔物に試してみりゃあ、こっちの戦力になるかもしれねぇって事か。村の神官なんかは、用心棒代わりに持ってもいいかもしれねえなぁ」


 真面目な顔でフランクさんが考えこむんだけど、いかんせん、頭の上のピンクのウサギがその場の雰囲気を壊しちゃってます~。


「ただ、あんまり強い魔物を支配できるとなると、お偉方が騒ぎそうだよねぇ」


 さすがにアルゴさんも笑ってばかりだと話が進まない事に気がついたみたいです。でも微妙にフランクさんから視線はずしてるし……


「下手すると、魔物の子供を神殿に連れてこいって言われるかもしれねぇなぁ。ノアールとコイツを見せろって言うくれぇならともかく、神殿のジジイどもは自分が魔物を支配するために魔物を連れて来いって言いだしかねねぇ。だが、そいつはうまくねぇな」

「うん。ワーウルフくらいの子供ならそんなに強くないし、捕まえようと思ったら捕まえられるもんねぇ。もっとも魔物の子供なんて、魔の氾濫で、魔物が大量に増えてるこの時期くらいでないと、滅多に見ないけどね~」


 そうなんだ~。魔の氾濫は嫌だけど、でもそのおかげでノアールと出会えたって事なんだね。


「そんじゃ、あれだな。これを神殿に報告するのは、魔の氾濫が鎮まってからにするか」

「だねぇ。ただでさえ魔物退治しなくちゃいけないのに、子供は生きて捕まえろとか言われても無理だし。たださ、フランクがキュア飛ばしを教えてもいいと思うくらい信頼置ける友達には、ちょこっとくらい口が滑っても仕方ないと思うんだ」

「なるほど。そいつは仕方ねぇな」


 フランクさんは厳めしく腕を組んで頷きました。でも頭の上のうさちゃんに皆の視線は釘付けです。


「ところで、その子の名前決めたの?ぷぷっ」


 フランクさんの頭の上を見たアルゴさんが、また笑いの発作に襲われました。


「ああ?名前なんてうさぎでいいだろ」

「だ……だめです!ちゃんと名前をつけてあげないとかわいそうです!」


 ジロリと睨まれましたが、怖くないもん!

 ここはうさちゃんの為にもがんばるんだもん!


「ああ、じゃあ保存食とか非常食とか」

「だーーめーーでーーーすううううううう」

「いや、でもな。今日の食材にしようと思って狩ってきたんだけどな」

「この子はフランクさんのパートナーなんだから、食べちゃだめですーーーー!」

「じゃあ、ユーリが名前つけてくれよ」


 脱力したようにフランクさんが言うと、それまで大人しくしていたうさちゃんが、耳をピコンと立ててきゅうきゅう鳴き始めました。


 えーと、これって、もしかして、抗議してるのか……な?


「なんか、フランクさんが名前つけないとダメみたいですよー」

「勘弁してくれよ、おい……名前なんてどうすりゃいいんだよ」

「適当につければいいよ。ピンクとか肉とか耳とか」

「もー!アルゴさんも、もっと可愛い名前を考えてくださいいいいい」


 まったくもう!

 二人とも、もっと真面目に考えてください!


 視界の隅で、ノアールが呆れたようにあくびをするのが見えた。

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