第13話ついにレベルアップです!
その日の夜はたくさん悪夢を見て、たくさんうなされて、たくさん泣いた。そしてアマンダさんに、いっぱいいっぱい背中をさすってもらった。
夢の中では九条悠里が、ユーリ・クジョウが、何回もワーウルフに食べられた。
そしてお腹の中で、二人は一人になった。
翌日の目覚めは最悪だった。どんな夢を見ていたのか覚えてないけど、たくさん泣きすぎて、頭が重い。
う~。
アマンダさんは忙しいのか、もう部屋にはいませんでした。
体調も悪いし、と一人でベッドでゴロゴロしてたんですが……
しばらくして、思いつきました。ヒールかキュアで治るんじゃないかって。
予想通り、先にヒール・ライトしてみたら治ったのでちょっぴり復活です。
そしてそういえば、と思ってステータスを見てみたら……
なんとLVアップしてました~~~!
ユーリ・クジョウ。8歳。賢者LV2。
HP 176
MP 165
所持スキル 魔法100
回復100
錬金100
称号
魔法を極めし者
回復を極めし者
異世界よりのはぐれ人
幸運を招く少女
HPとMPがちょっと上がってる~。
あと……あれ?称号が増えてる。
幸運を招く少女、だって。運がいいってことかな?
うん。確かにこの世界に来てからいい人たちばっかりと巡り合ってるから、運がいいよね。だからこの称号がついたのかなぁ。
でもLVアップの時は、ゲームみたいにLVアップ音が鳴るのかと思ってた。いつLVアップしたんだろう……。
その瞬間に気がつかなくて、凄く残念。
やっぱり昨日、パーティー組んでた時かな。レオンさんたちが戦って倒した分の経験値もらえたのかも。
ただ、やっぱり自分でも戦って経験値もらいたかったなぁ。
戦う……かぁ。
そうだよね……。強くなるためには、戦わないとダメだよね……
ゲームだったら、目の前の魔物に切りつけたって何したって胸は痛まないんだけどなぁ。魔物も血が出る生き物だと思うと、やっぱり倒すのに躊躇する。
だけど魔物なんだから、倒さなかったらこっちがやられちゃうし……。そう。ダスク村の人たちのように。
そうだ。ためらっちゃダメだ。
相手が魔物じゃなくて、たとえばライオンだったとして。襲われた時に、銃を持ってたら、私は引き金を引くと思う。
魔物だってそう。
抵抗しなかったら殺されるんだから、戦って倒さないと。
でもその前に、魔法の威力を下げないとダメかもしれない……
せっかく賢者になったのに、宝の持ち腐れって気がするよ~。
戻ってきたアマンダさんと朝食を摂りながら、魔法の練習の話をすると、う~んと考えて、レオンさんに話してくれる事になった。
忙しいのに、お手数かけてすみません……
でもそのおかげで、午後になったら魔法の練習をすることになりました。
魔法を教えてくれるのは、イゼル砦の魔法使いさんだそうです。
昨日の討伐に一緒に行ったのは魔法剣士さんばっかりだったから、魔法使いはいないのかと思ってたんですが、いたんですね~。なんでも皆で魔物討伐に行っちゃうと砦の守りが薄くなるから、砦の中で待機していたんだそうです。
その魔法使いさんにこれから会わせてくれるという事で、レオンさんの執務室でレオンさんとアマンダさんと一緒に待っているところです。
「緊張します……どんな人なんでしょう」
やっぱり魔法使いって事は、黒いローブを着て長い髭のおじいさんとかでしょうか。いや、なんとなくイメージでそんな感じかな~って。
「ちょっときつい言い方をする事もあるけど、いい子よ。16歳だけど、魔法の天才と呼ばれているわね」
おお~。
そんな凄い人なんだ。仲良くなれるといいなぁ。男の子かな、女の子かな。
わくわくしながら待っていると、トントンと執務室のドアがノックされた。
「セリーナです。団長がお呼びと伺いました」
「入れ」
カチャとドアがゆっくり開いた。
そしてそこに現れたのは、金色の髪をくるくると巻き毛にして、シンプルだけど質の高そうなドレスを着た、ちょっと釣り目気味で金髪碧眼のビスクドールのような女の子でした。
うわぁ。今度はお姫様だぁ……素敵……
その人は、本当のお姫様のようにゆっくりと身を屈めてドレスをつまみ、それはそれは優雅なお辞儀を見せてくれました。
す……凄いよ!映画みたいだよ!
「セリーナ・ライヴリー参上いたしました。どのようなご用件でしょうか」
「セリーナ、ここは宮殿ではないと何度言ったら分かるんだ。さっさと顔を上げろ」
「はい。レオンハルト様」
レオンさんに言われて、セリーナさんと呼ばれた女の子はゆっくりと顔を上げた。
うわぁ。近くで見ても、凄く綺麗だな~。本当にお人形さんみたい。
「君には、ここにいるユーリ・クジョウに魔法の制御を教えてやってもらいたい」
「先日から噂になっている異国の神官ですか?でも魔法も使えるというのは……?」
「ユーリは神官ではなく、賢者という職の者なのだそうだ。回復魔法と攻撃魔法のどちらも使える。だが攻撃魔法に関しては、威力が大きすぎて味方を巻き込みかねないらしい」
「どちらも……?なるほど、それで魔法の制御ですか」
「頼まれてくれるか?」
「それがレオンハルト様のご命令なら」
「任せた」
「かしこまりました」
セリーナさんはまた綺麗なお辞儀をすると、ゆっくりと私の方を向いた。青い瞳がじっと私を見つめる。
「セリーナ・ライヴリーよ。これから私が、あなたに魔法の制御を教えるわね。魔法の制御といえど、教えるのであれば子供だからと言って手加減はしません。それでもいいかしら?」
「あ、あの。私はユーリ・クジョウです。えっと、がんばりますので、よろしくお願いします」
16歳にしては凄く大人っぽい人で、なんだかこっちの子供っぽさが恥ずかしくなっちゃうなぁ。
なんか、でも、ホント前より子供っぽくなってるような気がするんだよね。すぐ涙がぽろぽろ出ちゃうし。もしかしてこれって体の方の年齢に精神年齢が引きずられているからとか……?
ま……まさかね。
「練習は、地下の鍛錬場かな。結界が張ってあって、どんなに激しい魔法がぶつかっても建物が壊れないようになってるのよ。そこならユーリちゃんが魔法使っても平気だと思うわ」
へえ~。あれ?でもだったら何で、一昨日の回復魔法の検証の時は広場でやってたんだろ?
アマンダさんに聞いてみると、回復魔法で壁は壊れないから、と言われてしまいました。
う……返す言葉もありません。
アマンダさんの案内でセリーナさんと一緒に地下の鍛錬場へと降りた。石造りのちょっと広めのお部屋だった。
「さあ、ここならユーリちゃんも思う存分、魔法を使えると思うわ。本当はまだまだ魔法が使える事は隠しておきたかったんだけどね」
「え?」
「何でもないわ」
最後のほうの声が小さくてよく聞き取れなかったけど……たいしたことじゃないのかな。
「では早速始めましょう。アマンダさんは見ていきますか?」
「そうね、少し見ていこうかな」
「では、そちらにお掛けください」
部屋の隅の椅子にアマンダさんが座ると、セリーナさんの話が始まった。
私たちが使う魔法は、この世界に空気のように存在している魔力を使っているものなのだそうだ。
魔法使いたちは長い詠唱でその魔力を集めて凝縮して、魔法を行使する。そしてその時に対象を定めるように魔力を使えば、魔物なら魔物だけにその魔法が適用される、という事らしい。
う~ん。分かったような分かってないような……
私の場合は、そんな長く詠唱しないし……どうやって対象を定めればいいんだろう。
「とりあえずあなたの魔法がどんなものか見せてもらうわ。中央の木の人形に魔法をあててちょうだい。得意な魔法は何?」
「特には……」
「では使える魔法の属性は?」
「雷と風と火と水と土です」
「……全属性……」
セリーナさんは驚いていたけど、すぐに気を取り直した。
「じゃあウィンド・アローは使える?」
「はい」
「それであの人形を攻撃してみてちょうだい」
えーっと、なるべく威力を小さくするように意識するといいのかな。あ、でもそうじゃなくて、対象だけに魔法が効くようにするんだっけ。
とりあえずやってみよう。
「ウィンド・アロー!」
魔法を詠唱すると、無数の風の刃が木の人形に向かって降り注いだ。
木の人形は粉々に刻まれて、ただの木屑になってしまった。
「ばかな……術名だけであれだけの魔力を引き寄せるの?あり得ないわ……それにあの人形には防御の魔法を組み込んであるのよ……?それが、あんな……」
あのぅ……なんかすみません……
ゲーム由来の魔法なので、色々と非常識かもしれません……
あ、でも今の感じって、なんか木の人形だけにウィンド・アローを当てられてた気がした。
やっぱりイメージが大切なのかな?
練習したらなんとかなるかな?
どうせ壊れてしまうのなら、防御の魔法をかけた人形はもったいないという事で、なぜか大きな丸太が運ばれてきました。
?
何ですか、これは?
「ちょうど処理したいなって思ってたのよね。魔法の練習ついでにこれを薪にしておいてちょうだい」
「は?」
「だって、薪になるくらいの木切れになるのを目標にするなら、細かい魔法の調整にちょうどいいでしょう?」
え?そういう問題ですか?
「木なら魔の森にいっぱいあるしね。思う存分、やっていいわよ」
アマンダさん、そういう問題じゃないと思いますううううううう。
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