第11話握手でこんにちは

「よしっ。じゃあ嬢ちゃん、ちょっくら色々試しに行くか!」


 握手した手をそのままガシっとつかまれて、いきなりフランクさんに体を持ち上げられてしまいました。


 ぶら~ん、ぶら~ん。


 なんだろう。皆さんの視線が呆気に取られているのを感じます。

 確かに絵柄的に、片手でちびっこを持ち上げる筋肉さんの姿って、どうなんだろうって気がします。


「ちょっと待て、フランク。まだ話は終わってないだろう。それにユーリはまだ魔力切れから回復したばかりだぞ」


 レオンさんが私をフランクさんから引き離しました。

 レオンさんのお膝さん、ただいまです。


「話なんざ後でもいいだろ?魔の氾濫が近づいてるんだ。何ができて、何ができねぇのか早めに確かめる方が大切だろうが」

「だが何も分からないまま協力しろと言われても困るだろう。子供とはいえ、ユーリは賢い。説明をしてから協力を求めたほうがいいのではないか?ユーリはどうだ?」


 そう聞かれて、確かにそうかも、と思う。

 すぐに色々試したいフランクさんの気持ちも分かるけど、もーちょっと色々話を聞きたいし、ここで試せる事をやっておきたい。


「えと、フランクさんの方から私にパーティーの申し込みができるかとか試してみてもいいですか?あと、魔のハンランとかもよく分からないから説明して欲しいです」

「……仕方ねぇなぁ。そんじゃあれだ。早速俺からパーティーの申し込みってヤツをやろうじゃねぇか。パーティー組んでくれ、って言やぁいいのか?」

「あ、待ってください。その前に今組んでるのを解散しとかないと」


 これで解散できるかな。


「このパーティーは解散します!」


 宣言すると、パーティーウィンドウが消えた。

 ほっ。これでいいみたい。


「じゃあフランクさんお願いします」

「よしきた。嬢ちゃん、俺とパーティー組もうぜ」

「握手もしてください~」

「おう。これでいいか?」


 ぶんぶんと思いっきり握手をされる。

 凄い勢いで痛いですうううう。もうちょっと手加減してくださいいいい。


「あ、パーティー組めた」


 しっかりパーティーウィンドウが出ました!成功です!


「おお」

「何か変わった感じはしますか?」

「いや、何もねぇな。お嬢ちゃんは何かあるのか?」

「えっと、パーティー組むと、パーティーウィンドウが開くんですけど、どう説明したらいいのかな……なんていうか、空中にパーティー組めましたよ、みたいな表示が出るっていうか、そんな感じ?」


 うううう。私の語彙能力の乏しさが悲しい……

 うまく説明できないよ~。


「つまり嬢ちゃんにしか分からねぇって事か。そうすると俺が他のやつとパーティー組んだとしても、それが成功してるかどうかは分からんって事だなぁ」

「ですね……あ、でも、ヒール・ウィンドがかかればパーティー組むのに成功してるって事になるから、分かるかも?だけどそれを確認する為だけにヒール・ウィンドのMP20を消費するのって無駄かなぁ?う~ん」


 悩んでいると、レオンさんが頭をぽんぽんとしてくれた。


「そう悩む必要はない。これから色々試せばいいし、差しあたってフランクが試したいのはヒール飛ばしだろうから、それができるようになってから他の事も考えよう」

「そう……ですね。分かりました!」


 うん。そうだよね。一度に全部教えるなんて無理だもん。

 ちょっとずつ、自分にできることをやっていけばいいよね。


「あ~、ヒール飛ばしもだけど、ヒールの詠唱短縮もやりてぇなぁ。どうやって魔法発動してんだろうなぁ」


 すみません。それも私にはうまく説明できません……。


「あ、フランクさん。試しにレオンさんたちもパーティーに誘えるか試してもらってもいいですか?」

「え?俺がやんのか?」

「はい。だって今はフランクさんがパーティーリーダーですもん」


 そう言うと、フランクさんは眉をしかめてそれはもう嫌そうな顔をした。

 あれ?何でそんな嫌そうなの?


「パーティー組んでくれって言って、握手すんのか……?団長とアルゴとアマンダに……?勘弁してくれよ、おい」


 フランクさんは小さな声でブツブツつぶやいてる。


「私だって気持ち悪くてごめんだわ」

「ユーリちゃんと握手ならともかく、フランクじゃなぁ……」


 アマンダさんが腕をさすりながら言うと、アルゴさんも同意した。

 ええっ。そんなに嫌がらなくてもいいのにー。


「まあ、あれだ。別にパーティーなんざ組まなくても、今までちゃんと回復できてんだから必要ねぇよな!ヒール飛ばしの練習だけすりゃぁ、いいよな!」

「そ、そうよねっ。絶対に守らないといけないって人だけ、ユーリちゃんにパーティー組んでもらって回復してもらうとかねっ」


 え……アマンダさんもそんなに嫌なの~?

 大人ってよく分かんないなぁ……


 あれ?私も18歳なのに、何言ってるんだろう?

 自分で思った事なのに、少しだけ違和感を覚える。

 あれれ?


「そういえば、パーティー組んだ場合って、どこまで魔法が飛ばせるんだろう?」


 そのわずかな疑問は、アルゴさんに話しかけられた事によって霧散した。


「う~ん。この部屋の中くらいなら大丈夫ですけど、それ以上はどうなんだろう?」

「ヒール飛ばしもどれくらいの距離まで可能なのか、一度試してみてぇなぁ。明日んなったら、嬢ちゃんの魔力も回復してんじゃねぇのか?」


 フランクさん、私の魔力が回復してたら、今すぐにでも飛び出して行きそうな勢いですね……。


 そういえば、今思い出したけど、アイテムボックスにMPポーションがあるんじゃないっけ。ちゃんと中身を全部確認してないから断言できないけど、いつも手持ちで5枠は持ってたはずなんだよね。


 エリュシアオンラインのアイテムボックスは、道具と装備が別枠で、それぞれ100個ずつ持てる。で、装備は1枠に1個しか入れられないけど、道具類の場合はその1枠に同じアイテムを999個重ねる事ができるの。だから、MPポーションを5枠って事は5×999個で4995個は持ってるはず!


 何でそんなに持ってるかっていうと、ポーション類は買わなくてもいいようにってがんばって錬金のLVを上げてて、そのおかげで自作のポーションをいっぱい持ってるから。

 目指せ、自給自足!とか言いながら錬金のLV上げしたのが懐かしい。


 武器とか防具とかアクセみたいには稼げなかったけど、そっちはギルドで上げてる人がいたから材料渡せば作ってくれたし。ダンジョンでも装備は拾えたから、特に困った事はなかったし。


 なんか、せっせと薬草拾ってポーション作って、たくさん作ったのをギルドの皆にあげるのが楽しかったんだよね。

 ああ、ギルドの皆にも会いたいなぁ。


 はっ。いけない、いけない。

 こんな懐かしがってる場合じゃないっけ。

 えと、今からMPポーション出して……


 そうだ。錬金釜があれば薬草採取してポーションとかMPポーションも作れるんじゃないかな。錬金釜もアイテムボックスの中に入ってるといいんだけど。それも一緒に確認してみようっと。


 でも、ここでアイテムボックス出せないから、ダミーにしてる猫の顔カバンから出さないとダメだ。あれってアマンダさんの部屋にあるのかな?

 

 あ、でも待って。まだ魔のハンランの事とか聞いてない。

 猫の顔カバン取りに行くのは後にしよう。


「あの、魔のハンランって何なんですか?」


 私が聞くと、レオンさんが地図の魔の森のところに指を置いた。


「この、魔の森にはたくさんの魔物がいる。理由は分からないが、約10年に一度、その魔物が異常に増えて魔の森から人のいる場所へとあふれてくるんだ。その前兆として、ゴブリンの異常繁殖が起こる。昨日、ユーリがいた森のはずれのあたりには普通はスライム程度の弱い魔物しかいないが、魔の氾濫が起こると、森の奥から多くの魔物が現れる。そしてゴブリンが森のはずれまで姿を現すと、やがてそれよりも強い魔物、ワーウルフやサーベルキャットのような魔物が森から出てきて、近隣の村や町を襲うんだ」


 レオンさんの指が、アレス王国の中の森から少し離れた場所を指す。

 何も描いてないけど、ここら辺に村とか町があって襲われるってこと……?


「イゼル砦はその魔の氾濫を瀬戸際で食い止める為に存在する。魔の氾濫の前兆が起きれば、森へと入って魔物たちを殺し、その数を減らすために。もちろん我が国だけでは無理だからな。既に他国には通達を出している」


 そこでレオンさんは、言葉を止めた。


「ユーリ。君はまだ子供だ。だが我々にはない力を持っている。今回の魔の氾濫は、予定より早くきていて、まだそれを抑える準備が万端とは言えない。本来ならば我々が守るべき子供の君に頼むのは申し訳ないが、後方支援として共に魔の森の氾濫へ向かってはくれないだろうか?」


 魔物を倒すのならゲームではたくさんやってるけど……


 昨日のゴブリンの群れを思い出す。

 ここは現実で、魔物の流す血も、レオンさんたちの流す血も、現実の物。


 私に……魔物を倒すなんてことができるんだろうか……?

 後方支援ってことは、エリア・プロテクト・シールドをかけたりするって事だよね?それなら……できるかな……?


 昨日のアルゴさんの姿を思い出す。


 もし私が何もしないでここにいる誰かが死んでしまったら、と考えて背筋が凍る。


 嫌だ、それは絶対に嫌だ。


 私にできる事はしようって決めたんだもの。

 だったら、できる限り、がんばろう。


「分かりました。がんばってみます!」

「ありがとう、ユーリ」


 賢者LV1のユーリ・クジョウ。魔物退治をがんばります!


 アルゴさんに紙をもう一枚もらって、皆と相談してこれから試してみる事を書き出してみた。



 ヒール飛ばしを教える事が可能かどうか。

 詠唱短縮を教える事が可能かどうか。

 パーティーを組める人数は6人までが限度なのか。

 パーティーを組んだ際にヒール・ウィンドを使えるかどうか。

 プロテクトとプロテクト・シールドは効果が重なるのかどうか。

 私の使う攻撃魔法の効果をもう少し抑えて、対象の魔物だけに使えるようにできるかどうか。



「ん~。これくらいですかね~?」

「思いついた事があれば、また書き足せばいいだろう」

「ですね~」


 相変わらずレオンさんのお膝の上でこれを書いてます。いや、だって高さがちょうどいいんだもん。


「早く明日になんねぇかなぁ」


 フランクさんが悔しそうに言ってます。この人、思いっきり戦闘民族ですよね~。本当になんで神官やってるんだろう?謎だ~。


「それなんですけど、私のカバンの中にMPポーションがあるので、それ飲めば魔力全快すると思います」

「いやいや、ちょっと待って。MPポーションを使うんなら、うちの在庫を使うべきだろう。俺たちが負担しないとおかしいよ」


 アルゴさんはそう言ってくれたけど、でも4995個はあるしなぁ。錬金釜さえあればまた作れるし、大丈夫!

 まだ確認してないけど、多分ある。ある事を祈ろう、うん。


「でもいっぱい持ってるし……」

「でもねぇ……」


 渋るアルゴさんの肩を、フランクさんが豪快に叩いた。

 あ、痛そう。咳きこんでるし。


「そうだよな。うちにもMPポーションぐれぇあるな。それ使おうぜ!早速持ってくるから広場で待っててくれや」


 返事を聞く前に出て行ってしまいました。早いなぁ。


「では俺たちも広場に行くか」


 レオンさんが私の体をひょいと持ち上げて、床に下ろした。

 はいっ。がんばります!





 その後、MPポーションを山のように抱えたフランクさんの到着を待って、初めて砦に来た時に見た広場で色々と実験してみました。


 その結果。


 ヒール飛ばしは、パーティーを組んだ状態で練習すると使えるようになるみたいでした。なんだろう、やっぱり自覚はなくてもパーティー組んでる状態っていうのが、無意識に効果を出してるのかな?

 最初は何度やってもダメだったんだけど、パーティー組んだ状態でやってみたら、なんとなく今までと違ってできそうな感じがしたみたいで。そのまま練習したら、なんと2時間くらいで習得してました。

 フランクさん凄いです!

 筋肉モリモリの胸を誇らしげに張ってました!


 でも、その、できそうな感じがどういうのかをアルゴさんが聞いたら、フランクさんは「できそうな感じはできそうな感じだろ?」と答えていました。

 正直、答えになってませんね……


 ただ詠唱短縮は無理みたいでした。

 魔法はイメージってことで、それを実践して昨日エリア魔法を発動させるのに成功したから伝えてみたんだけど、やっぱりフランクさんにうまく伝えられなかったみたいです。

 やっぱり現実でゲーム的な魔法の発動は無理なんでしょうか。


 でもゲームと同じようにパーティーを組める人数は6人までだったし、パーティーを組んだ時だけ、私はヒール・ウィンドを使えました。

 でもフランクさんは元々ヒール・ウィンドの魔法を知らなかったので、使う事はできないみたいだったけど。


 やっぱり、私が使う魔法と、この世界の魔法は違うって事なのかな~?

 術名自体は同じなのになぁ。


 プロテクトとプロテクト・シールドの効果が重なるのかどうか、に関しては、恐ろしいことにレオンさんとアルゴさんが実際に対戦して確かめてました。


 回復役が二人もいるんだから大丈夫だろうとか言って、なんていうか嬉々として戦ってました。

 普段のアルゴさんは優しそうで、レオンさんも冷静沈着って感じで、熱くなりそうにない二人なのに、剣を取ると人が変わるんですね……


 っていうか怪我すると切り傷が見えて、なんていうか傷口がぱくっと開いて、そこから血が出て。

 さすがに魔法剣は使ってないから、純粋に剣技だけなんだけど、それでも二人の打ち合いは凄くて。


 怖くて怖くて逃げだしたくなったけど、でもがんばるって決めたから。

 だから二人にヒールをかけながら、二人が打ち合うのをがんばって見守って。


 怪我をしても、ヒールすればちゃんと傷が治るんだっていうのをちゃんと実感できてからは、なんとか気を落ち着かせる事ができました。


 うん。魔法凄い。


 あんなに血が流れてても、元の綺麗な肌に戻るんだもん。

 まあ……服は破けちゃってるけどね。


 そうして確認した結果、プロテクトとプロテクト・シールドは別々に作用するって事でした。どっちも効果時間は30分で、それぞれダメージの約10分の1を軽減するみたい。

 つまり、両方かければ、受けるダメージを10分の2、つまり5分の1減らせるって事よね?


 じゃあ魔の氾濫が起こったら、エリア・プロテクト・シールドとエリア・マジック・シールドをかけておけばいいって事かな……


 エリア魔法も効果は30分だろうから、30分おきにMPポーションがぶ飲みでいくしかないかぁ。MPポーション1個でMP30回復だから、30分おきに2本だね。

 あ、でもMPハイポーションならMP50回復でちょうどいいかも。あれもアイテムボックスに貯めこんでたはずだけど……


 そして一番の問題。


 私の使う攻撃魔法の効果をもう少し抑えて、対象の魔物だけに魔法を当てる事ができるようになるかどうか、は……


 ここで練習をすると砦に物理的被害を与えるかもしれない、ということで、他の場所で練習しましょうということになりました。


 確かに城壁を壊したら大変だもんね……


 あと一週間で、なんとか実戦に使えるようになるのかな~?

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