いじめ撲滅委員会

行来戻

第一部「風船」/第一話

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 上昇して、膨らんで、破裂して、散って。

 そうして清く死ねたら良いのに。

 なんて思いつつ、しかし一方で、糸を誰かに掴んでいて欲しいと思ってる。


 ――誰だってそうでしょ?


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   はじめに。


 父さん、母さん、姉さん、そして僕を憎からず、或いは好きでも嫌いでもなくかといって無関心でもない、言うなれば普通だ、と思っている全ての人よ、先立つ不孝、先立つ勝手をどうかお赦し下さい――なんて書いたところで、もうあなたたちがこれを読んでいる頃には全部手遅れになっているのだろうけれど、それでも申し訳ないので、とにかく謝らせて下さい。

勝手に死んで本当にごめんなさい。赦して下さい。赦されなくても、この世からもう無くなってしまう僕の心は痛くも痒くも無いけれど、それでもごめんなさい。

 ――なんだか、自分の心中のありのままを、こう、詳細かつ正確に書こうとすると、チープな感が否めなくなってしまうのは何故だろう。僕としては真心を尽くすというか真心を書き尽くすというか、謝罪の念を何とか伝えたいだけなのだけれど、読み直すと、ふざけているようにも読み取れる。いやむしろふざけているのだという印象しか生まれない。

 まあいいか。

 くどいようだが結局、僕の謝罪の気持ちが伝わろうと伝わらなかろうと、死んでしまえば僕にそれを確かめる手段はないのだから、そんなことはどうでもいいと言ってしまえばどうでもいい。もちろん、僕がこうしてまだ生きている限りにおいては、かといって謝罪が伝わらなくてもいい、ということにはならないし、僕の、謝罪したいという気持ちは変わらない。この点で、遺書というものが如何に頼りないものかが露見してしまったとも思えるけれど、でも僕が今採り得る手段はこれしかないのだし、そう思うと死を待つのみの資産家の気持ちがよく分かるようでもある。必ずしも藁をも掴む気持ちではないにも拘らず、遺書は藁に他ならないのだ。もしかしたら、こういうことを曝け出してしまうから、ふざけているように思えてしまうのかもしれないが、だからといってこういう本心を伏せてしまえば、それこそ本来の目的から離れてしまうので、そういうことはしない。

とにかくこれで、僕が死という手段を選んだことについて謝罪したわけであるから、そしてそれが死後の世界に伝えたい僕の気持ちであるのだから、このデータファイルが遺書であるための最低条件はクリアしたことになるけれど、僕がなぜ自殺という行動に出たのか、という点について、僕には説明責任があるように思うので(勝手に死んだわけだからね)、というか、というよりも、死ぬ前にそういうことを整理しておきたいし、そういうことを遺して逝きたいので、僕のここ最近の一連の事件を、この後につらつらだらだら書く。事情を知っている人なら、或いは勘の良い人なら、僕が説明せずとも分かるのだろうが、父さんや母さんはさっぱりだろう。だから、僕がここに事の顛末を最初から最後まで細大洩らさず――とは言っても努力義務で勘弁して欲しいが――僕からの目線で出来るだけ正確に書くことにする。

 さて、特に拘りがあるとか、そういうわけでは無いのだけれど、桜の話から始めることにする。何故ならその時、僕の意識に上っていたのがちょうど桜だったからだ。そう、数日後におかしな集団の一員になることも、そこで変人達と出会うことも、そしてたくさんの経験をすることも全く知らない、その予感すらしていないまだ平穏な僕は、身体中の力を抜いて、どべーっ、と机にほとんど突っ伏すような形で窓の向こう、校庭に植えられた桜を眺めていた。これが僕の素晴らしき平和の、最期の日だと知っていれば僕はこんなにのんびりしていなかったのだろうけれど、仮に僕が未来の波乱万丈を知っていたとして、その上でSF、ループ物よろしく、その未来を何とか変えようと奮闘したとして、それで何か変わったかと言えば難しいところである。であるから、この際、ああすれば良かった、だの何だのうじうじ考えるのはやめて、とにかく事実を順番に思い出していくことにする。それが最も無難な方法だろう。後から考察したって、将棋やチェスではあるまいし、ただの後悔に過ぎないのは百も承知である。

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