サンタがくれたもの

はらぺこおねこ。

第1話

『バケモノ!』

『バケモノ!』

『バケモノ!』


あぁ……

五月蠅い


『バケモノ!』

『バケモノ!』

『バケモノ!』


五月蠅い!

五月蠅い!

五月蠅い!



『バケモノ!』



……なんなんだ。

なんなんだよ……


俺は、バケモノなんかじゃない!

いつからだろう……?

人の心が読めるようになったのは……

いつからだろう?

バケモノと呼ばれるようになったのは……

俺が、物心つた時には、俺はバケモノだった。

それは、心が読めるからじゃない。

見た目の問題だった。

俺が心を読める事を知っているのは……

俺と、爺ちゃんのサンタクロースしか知らない。

俺は、親兄弟に嫌われている。

俺は、生まれてすぐに両親の元を離され、爺ちゃんの家に預けられた。

その為、俺の家族と言えるモノは、爺ちゃんしかいなかった。

子供の頃、俺はバケモノだと言われた。

大人になってからは、バケモノと心の中で言われるようになった。

よく、思った事をすぐに口に出す子供は、残酷だと言う。

だけど俺は思う。

それを残酷だと言う大人は、もっと残酷なのだと……

「はぁ……」

俺は、溜息をついた。

26年生きてきたが、何一つ良い事なんてない。

もちろん、彼女もいない。

「疲れたな……」

生きることに。

俺は、そう思うと、買ったばかりのカッターナイフを手首に当てた。

そして、スーっと切った。

血が外に流れ出ていく。

その感覚が、どことなく気持ちが良い。

俺は、ゆっくりと目を閉じた。

俺は、死ぬんだな……

あ、死ぬ前に風俗にでも行って、童貞でも捨ててくるべきだったかな……

まぁ、いいや……

にしても、俺はいつ死ぬんだろ……

……なかなか死ねないな。

あれ?

血が止まってる?

俺は、そう思うとゆっくりと立ち上がった。

どこか、散歩にでも行こうか……

俺は、フラフラと玄関を出て、街に出た。

俺が、街に出ると悲鳴を上げる人たちがいた。

あ、そうだった。

俺、手首切ったんだな……

今、血まみれだった。

「あははははは……」

笑い事じゃない。

救急車とか呼ばれたら面倒だ。

いや、その前に警察か……

俺は、足早に家に戻った。

とりあえず、着替えよう。

「なんじゃ、達也、戻ったのか?」

「うん」

俺が、家に帰ると爺ちゃんがすぐに声を掛けてきた。

「ワシは腰痛で、今年は無理かもしれない」

「無理って?」

「子供達にプレゼントを配る事だよ」

「いいんじゃない?」

「よくないわい。

 子供達は、皆、ワシのプレゼントを期待して待っているんだぞ?」

「いまどき、サンタを信じている子供いないって……」

「お前まで何を言っている。

 サンタは、存在するぞ?」

「いや、それは、知ってるけどさ……

 サンタって、信用が商売じゃん。

 信じてもらえない時点で、商売になんないよ」

「そんな事を言わず今年は、お前さんがプレゼントを渡してくれないか?」

「嫌だ」

きちんと断らないと子供達にプレゼントをしなくては、いけなくなりそうだからきちんと断った。

俺は、そう思うと、足早でバスルームに向かった。

そう言えば、手首を切った事には、触れられなかったな。

爺ちゃんの中では、もう日常化しているのかも知れない。

爺ちゃん不幸(?)で、ごめんね。

俺は、バスルームにつくと、血を洗い流した。

俺は、生まれつき、血が止まるのが早い。

怪我が治るのも早い。

病気も治るのも早い。

それ故、俺がバケモノと呼ばれる起因の一つでもある。

血を洗い流すと、そこにはタオルを持った爺ちゃんが、ニッコリと微笑んでいた。

「やってくれないか?」

「……やらない

 第一、俺にはトナカイがいない」

「空飛ぶマントと、四次元風呂敷があるから大丈夫じゃ」

「空飛ぶマントと四次元風呂敷って、藤子不二雄じゃ、あるまいし……」

「お前が引きうけてくれるなら、これらの不思議なアイテムを全部課すぞ?」

「一度やると、ずっと続けなくちゃいけないだろ?」

「あはははは」

「笑ってごまかすな……」

俺は、爺ちゃんからタオルを預かると濡れた腕を拭いて、洗濯機にタオルを入れた。

「誰が、サンタになんてなるかよ!」

俺は、そう叫ぶと自分の部屋に行くとベットにダイブした。

俺にとって布団だけが、唯一の癒しだった。

コンコン。

部屋をノックする音が聞こえる。

「達也ー

 サンタをやってくれー」

爺ちゃん、しつこい……

俺は、部屋のドアをあけた。

「い・や・だ!」

そして、俺は家を出た。

家にいたら、サンタをやれと五月蠅いからね

俺は、気分を変える為、公園に向かった。

「ふぅ……

 ここに来れば、爺ちゃんも五月蠅く言えないだろう」

サンタの存在は、バレてはいけない。

バレると夢が壊れるからね。

俺は、ベンチに座ると、ゆっくりと溜息をついた。

「ひっく……

 ひっく……」

泣き声が聞こえる。

誰だ?泣いているのは……

俺は、辺りを見渡した。

泣いている女の子を一人見つけた。

俺は、ゆっくりとその女の子に近づいた。

「あー

 どうして、泣いているの?」

「私の所には、サンタさん来てくれないの……」

「サンタ?」

「元太君の所にも、光彦君の所にも哀ちゃんの所にも歩ちゃんの所にもサンタさんが去年は、来たのに……

 私の所にはサンタさんは来ないの……」

「良い子にしていないからじゃないのか?」

「うんん。

 私が貧しいからなんだって……」

「……貧しい?」

「サンタさん、貧乏な人の所には来ないんだって……」

「そんな事はないぞ?」

「だって、元太君言ってたもん!

 『お前の家、貧乏だから、サンタは来ないんだぞ!』って!!」

「どうして、貧乏とか関係あるんだ?」

「だってね……

 私、貧乏でお小遣いとかないから、お金を靴下の中に入れる事が出来ないの……」

「靴下にお金?」

「あのね。

 靴下の中に、サンタさんへのお金を入れないとプレゼンと貰えないんだって……」

「だれだ?

 そんな事を言ったのは?」

「元太君」

「……そいつは、嘘つきだ」

「え?」

「サンタは、そんな差別はしない!

 サンタがプレゼントを渡すのは、サンタを信じている良い子だけだ!

 決して、貧しいとかそんなの関係ないんだ!」

爺ちゃん。

どうして、この子には、プレゼントを渡してやらないんだ?

俺は、心の中で叫んだ。

「いいか!

 クリスマスの夜。

 靴下の中に欲しいモノを書いて、寝て待ってろ!

 サンタが必ずお前の元に現れてプレゼントを持ってくるから!」

「ホント?」

「ああ、ホントだ!」

「じゃ、指切りげんまん!」

「ああ」

俺は、その女の子と指切りを交わした。

サンタが、必ずこの子にプレゼントをあげるってね……

俺は、早歩きで家に帰った。

「爺ちゃん!

 俺、サンタやる!」

爺ちゃんは、走って玄関に現れた。

おいおい、腰が痛いんじゃないのかよ……

「おお!

 サンタになってくれる気になったか!」

「爺ちゃん仕事さぼってたんじゃないのか?」

「何かあったのか?」

俺は、爺ちゃんにさっきの女の子の事を話した。

「そうか……

 それは、悪い事をしたのぅ」

「なんで、その子にはプレゼントを渡さなかったの?」

「サンタを信じる心が、その子には、足らなかったのかのぅ……」

「子供って、サンタを信じるモノじゃないのか?」

「そうとは限らんよ」

爺ちゃんは、そう言って唸った。

「最近は、親がサンタの代わりをやっているからの。

 信じている子が少ないんじゃよ……」

「そうなのか」

「何はともあれ、サンタ役、よろしく頼むぞ?」

「わかってるよ……」

こうして、俺はサンタクロースをやることになった。

――クリスマスの夜。

俺は、赤い衣装に着替えて家を出た。

「そんな、格好で何をするんじゃ?」

爺ちゃんが、目を丸くして言った。

「何処って、サンタをするんだよ」

「赤い服を着てか?」

「何かおかしい?」

「人間式のサンタは、赤い衣装を着るかも知れないが……

 サンタ式のサンタは、黒い衣装を着るんだじゃよ?」

「サンタって普通、赤い衣装じゃないの?」

「それは、コカ・コーラ社の陰謀で赤くなったんじゃよ……

 詳しく説明すると長くなるから省略するぞ?」

「ああ……」

別に興味もないしね。

「さぁ、早く着替えろ。

 時間がないんじゃぞ……

 この衣装に着替えろ……!!」

俺は、そう言われ、衣装を受け取った。

「本当に真っ黒だな……」

「暗い色の方が見つからないじゃろ?」

「そうだけど……」

「まぁ、この服は、特殊で、一部の人間の目にしか見えないようになっておる」

「一部の人間?」

「清き夢を持った人間じゃ」

爺ちゃんは、そう言うと俺にウインクをした。

「さぁ、プレゼントを渡して来い!

 その風呂敷には、その子の欲しいモノが自動で出るようになっている」

「移動は?」

「歩きじゃ」

「へ?」

「トナカイなんて、目立つ生き物用意できるわけないじゃろ?

 ただでさえ、今は航空法なんて面倒なものもあるからな」

「……これで、世界を回れってか?」

「家の中に魔法のドアがある。

 それで、移動するのじゃ。」

「本当にドラえもんみたいだな……」

「こっちの道具は、17世紀の黒魔術を利用させてもらっているんじゃよ」

「ドラえもんとは逆か……」

「そうじゃな……」

爺ちゃんは、そう言って笑った。

「さて、そろそろ行かないと、朝が来るぞ……」

「ああ。」

俺は、爺ちゃんに案内され、その扉の前に出た。

思ったより感動は無かった。

その扉は、小さい頃から開かずの扉と言われていて、

『絶対に入ってはいけない』

と言われていたドアだからだ。

俺は、ゆっくりと扉を開けると、小さな子供が眠っていた。

「どうすればいい?」

「その子の顔を思い浮かべながら、サンタの袋に手を突っ込むと良い」

俺は、言われた通りサンタの袋に手を入れるとクマのぬいぐるみが出てきた。

この子は、クマのぬいぐるみが欲しかったんだな。

俺は、そう思うとそっと枕元に、くまのぬいぐるみを置いた。

俺は、扉を出た。

「なかなか筋がいいぞ?」

爺ちゃんは、そう言って扉を閉めた。

「これって、行く場所は、指定は出来ないの?」

「できるぞ。

 その子の顔を想像しながら扉を開けるのじゃ」

俺はこの間、出会った女の子の顔を想像しながら扉を開けた。

すると、そこには静かに眠っている女の子の姿が見えた。

「今、プレゼントをやるからな……」

俺は、そう呟き、サンタの袋に手を入れた。

すると出てきたのが、ボロボロになったクマのぬいぐるみだった。

こんなモノが??

俺は、一瞬戸惑った。

「早くしないと親が来るぞ……」

爺ちゃんが、小声で俺を読んだ。

俺は、戸惑いながらもそのぬいぐるみを枕元に置いて扉を出た。

「あんなもので、ホントに良かったのかな?」

「さぁな。

 じゃが袋は、期待を裏切らない。

 明日にでも、あの子と出会った場所に行ってみると良い

 さぁ、次の場所に行くぞ」

「ああ……」

俺は、頷くと次の扉を開けた。

それから朝が来るまで俺は、子供達にプレゼントを渡し続けた。

……眠い

「御苦労さま

 ほれ、暖かい缶コーヒーじゃ」

爺ちゃんは、そう言うとサンタの袋から、缶コーヒーを出した。

「ありがとう」

俺は、お礼を言うと、缶コーヒーを受け取ると玄関に向かった。

「寝ないのか?」

「ちょっと公園に行ってくる……」

「そうか……」

俺は、あの子と出会った公園に向かった。

すると、その女の子は、ぬいぐるみを持って嬉しそうにブランコに乗っていた。

俺は、その子に声を掛けた。

「よ!

 サンタは来たか?」

「あ、お兄ちゃん!」

女の子は、嬉しそうに俺の元に走って来た。

「サンタさん来たよ♪

 私のトコにも来たよ♪♪」

「そうか……

 よかったな!」

「うん!」

「何貰ったんだ?」

「んっとね!

 このクマさん!」

女の子は、嬉しそうにソレを見せてくれた。

「えらいボロボロだな……」

「んっとね!

 これ、お母さんの手作りなんだ!」

「手作り?」

「うん……

 でも、引越しの時に無くしちゃってずっと探していたんだー」

「そっか……」

「うん。

 本当は、お母さんと会いたかったんだけど……」

「お母さんいないのか?」

「うん

 死んじゃったの……」

なにか、聞いてはいけない事を聞いたような気がする……

「そっか……」

俺は、その子の頭を撫でた。

「でもね。

 このぬいぐるみがあるから私、頑張れる!」

「もう、無くしたりするなよ?」

「うん!

 ありがとう!」

俺は、ニッコリと笑って、ベンチに座った。

女の子は、再びブランコで、嬉しそうにクマのぬいぐるみで遊び始めた。

少し危ない気もするけど。

来年もサンタ、やってみようかな……

俺は、眠たい目をこすりながら、大きなあくびをした。



おわり

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