第61話
田舎の旧家の一人っ子には、それだけの重責と窮屈さがあるが、一人っ子という境遇に救われることもある。不惑を過ぎて、きょうだいがいない孤独と心細さを強く感じるようになり、2人の親を一人で支える覚悟も必要になった。諸々の角度から見ると、やはりきょうだいはいた方が良かったと思う今日この頃だが、一人っ子ならではの優遇を実感したのは、2度の離婚で出戻った時だ。これ以外にパッと思いつく一人っ子の利点はない。
きょうだいがいても、彼らが親元(実家)を離れている分は良いけど……
離婚した時、実家にきょうだいの家族が住んでいなくてラッキーだったなぁ、と痛感したものである。兄姉弟妹誰にせよ、単身でいるならいいが、配偶者がいれば、いくら自分が生まれ育った家でも敷居は格段に高くなり、恐縮しながら同居させてもらうか、状況やその人の性格によっては、親元であっても帰れないと思う。
「私は結局は一人になる」ことが定められていたかのように、何の気兼ねもなく、実家に帰って来られた。家賃が要らない、基本的に食いっぱぐれることは無いのは大変恵まれたことだった。父は公立中学校の教師(公務員)だったゆえに、退職後は厚遇に与っているため、経済的に援助した実績もない。蘭を連れて日本へ帰ると決めた時も、桂や台湾から離れるのは実にまさに断腸の思いであったが、帰国後の生活を憂うことはほとんどなかった。
しかし、‘老後’にも半端なくお金がかかる現実を徐々に学んだし、家賃は要らないが、家屋の修理はかなり頻繁に必要となることも、母子家庭の親が非正規雇用者なら、今の生活はできても、貯金ができないこと、貯金するなら国民年金を納める余裕がなくなることも学習した。
典型的な中流家庭に育ち、経済的困窮を知らずに44歳まで生きて来た私は自分の年収が「低所得層」の額に分類される上に、失業に怯えつつ就活する者の立場に自らが置かれている事実をすぐに信じて理解できず、どうしても第三者的視点から眺めている、という夢とうつつの狭間にいる。
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