第60話
市の商工会議所から委託されている中国人技能実習生のための日本語講習が7月24日より始まり、私は朝8時15分には家を出て、9時から授業を始め、夕方5時まで一人でそれを担当する生活に突入した。
この任務は、ワンターム約1ヶ月。ということは、蘭と桂が台湾へ発つ日も、お盆も関係なく土日以外、授業はある。せっかく桂が来てるのに……と悔しさはあったが、日本に定住して以来3年間、これがいわば本職であり、不定期ながら、一般的なパートタイマーの倍くらい報酬があるため、やるしかない。
講習初日の24日は、商工会議所の担当者・藤川さんも顔を出し、挨拶などした。私よりひとまわり以上年長の職位的にエライ人だが、つき合いが長くなり、話しにくいテーマは思い当たらない。そんな間柄だ。
いつも通り、きちんとスーツにネクタイの藤川さんが、ひとしきり実習生も交えながらしゃべった後、思い出したように言う。
「ああ、そうそう、来年は中国からほとんど来んようになりそうなんや。
あっちの国内の賃金が上がったし、最近円安やから。だから、高原さんとこも上垣さんとこもベトナムを検討中。仲介会社に頼んでも、人が集まらへんのやからしょうがないって……」
かろうじて、翌年(2016年) 1月まではあと3社に中国人がやって来る予定だが、それ以降は、あなた失業を覚悟してて下さいよ、という通告だった。
いずれはそんな時代が来るだろう、と藤川さんと話したことはあったが、こんなに早くその時が来てしまうとは想定外だっただけに、動揺は大きかった。
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