第59話

7月17日、桂が日本に帰って9日目、蘭の小学校で終業式が行われた。

桂が退屈しないよう努めたつもりだが、

「やったー! 蘭ちゃん、夏休み!」

と、桂は文字通り飛び跳ねてはしゃいだ。〝お姉ちゃんのチカラ〟が絶大なのは、一貫して変わらない。(桂はなぜか蘭を‘お姉ちゃん’とは呼ばないけど)

私は一人っ子ゆえ、想像の範囲を超えないが、年子の姉妹ならライバル意識やら羨望やらが渦巻いたりするんじゃないかと思うが、ない。

桂には失礼だが、ぱっと見、人目を引くのはどう見ても蘭である。赤ちゃん時代からそうだった。桂は…… 浅田真央ちゃん風の一重まぶた。一方、蘭はジャック似のぱっちり二重で、桂より派手な目鼻立ちをしている。白くキメの細かいもち肌で、じっくり見るとキュートな桂。笑顔がたまらない。しかし、周囲の人々を観察していると、まず注目するのは蘭なのだ。


幼稚園くらいからだろうか、赤ちゃんの頃の姉妹の写真やジャックが撮ったビデオを見ては、

「蘭ちゃん、可愛い!!」

と桂は絶賛した。もう少し大きくなると、

「蘭蘭はきれい。桂桂は可愛い。」

と、2人の違いを認めた上で、誇らしげでもあった。

また、‘2人目の宿命’、おさがり。こちらでも、桂は文句を言ったためしがない。稀に、新品をもらえばご満悦だったが、蘭が着ていた物が下りて来るのを嫌がったことがない。むしろ、

「これ、蘭ちゃん着られなくなったから、桂にあげるね。」

とか、

「もうすぐこれは桂のになるなぁ〜」

とか、内心彼女の反応を心配しつつ言うものの、

「やった〜! これ、好き!」

と、ちゃんと喜んでくれるのである。いい意味で、母泣かせな娘なのだ。


もちろん今でも桂は蘭に一目置いている。大好きで、憧れで、自慢の‘蘭ちゃん’ なのだ。

逆に、最近蘭の方が桂をライバル視するようになったのに驚いている。

「桂が大学に行くんなら私も行くし、桂が大学院に行くなら私も行く。」

なんて言う。

「桂に負けるのは絶対嫌なの!」

だそうだ。

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