第42話

ちなみに、江老師には出逢ってこのかた彼女がいたことがない。フルートの朱老師によれば、江老師が同級生に好意を寄せ、告白したことがある。

しかし、私からすれば羨ましいその女性は「NO」と拒んだ。男として見られない、と朱老師に話したそうである。

う〜ん…… 複雑な思い。

確かに、江老師は優しすぎるゆえ、しゃべり方も物腰も柔らかい。人当たりも然り。ニコニコ。男臭いタイプではまずない。

そして、齢40を過ぎると、よくわかるようになる。女は若い時、往々にして、ちょっとワルそうな、危険なニオイがする男性に惹かれる傾向が強い。妙齢の女性にとって、江老師を〝物足りない〟と感じてしまうのは、理解できなくはない。私くらい古くなれば、江老師みたいな人こそ

長く一緒にいられて、心安らかな時間を共有できるタイプだと学ぶのだが…… 毎日彼の二胡が聴けるなら、なおさら天にも昇る心地である。

うまく行かないものだ。

いずれにせよ、江老師にさほど結婚願望がないのが救いだ。何の救いかよくわからないが、ファンにしたら、独身でいてもらった方が気が楽だし、婚姻によって彼が俗的な些事に巻き込まれてほしくない気持ちもある。あくまでも、ピュアな二胡弾きでいてほしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る