第11話
桂をジャックのマンション(かつて家族4人が暮らし、これからジャックと桂が住む家) に送り、別れる時はフローリングの床に膝をついて桂を抱きしめ泣いた。めったに涙を見せない桂も泣いた。7歳だった。それを見て、ジャックはこうなったのも君もせいだ、みたいな悪態をついた。当時も現在も、前夫に反省の念はない。彼のせいとは言わないが、離婚は双方どちらにも多かれ少なかれ原因があるし、私も至らない点があったと認めている。せめて、互いに欠点があった、努力不足だった、と思ってくれればなあ〜、と感じる。さすれば、養育費の件は前進しただろうし、いまだに刺々しい表情や言葉を浴びせられたりしないだろうに。
「子どもがいなかったら、とーっくの昔にジャックとは別れてた。」
と実家に帰るたび母に愚痴った。台湾の親しい人にも。
それなのに、離婚を受け入れることは容易ではなく、最後の3ヶ月間は針山を歩いているような苦痛からいっときも逃れられなかった。ジャックへの未練ではなかった。思うに、家族、ひとつの家庭が崩壊する無念さや哀しみだった。曲がりなりにも形作っていた共同体が壊れる。2度と元通りにはならない寂しさ。それは強烈にキツかった。次第にパパとママがバイバイするのが現実味を帯びて、受け入れざるを得なくなっていく娘たちの変化も痛々しかった。
そこで離婚をためらい続けた私に、
「賢成義兄さんと緑翠は合わない。義兄さんのあの性分は直らないよ。そんなに我慢して無理して夫婦でいることはない。蘭ちゃんと桂ちゃんの心配は要らない。何があっても、生涯彼女たちは緑翠の娘に変わりはないんだよ。」
と、ジャックの従妹は何度も言った。娘たちがだいぶ私の手を離れ、女は経済力を持つべき、そうすれば自信も湧くし、世界が広がるから、と働くことを強く勧めたのも、4つ年少の彼女だった。
まともに働かず、妻に苦労をかけ、長女である彼女の職場に金を無心しに来た父親を持った。父親の家族の後押しもあり、両親は離婚したが、慈悲深い母親は元夫と同居し、世話し続けていた。そんな彼女の語りには、説得力があった。
時は熟した。とうとう来てしまった別れ。夫とのそれではなく、4人で過ごした時間と場所への別離、であった。
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