Licht Weg-キセキの先に-

玖蘭朱音

はじまり

深い闇の中に、存在感を示す泉。


通称<生命いのちの泉>の前には2人の男女が並んでいた。


女は巫女服を身に着けており、男はジャージにジーパンというラフな格好だった。


黒い綺麗な髪をたなびかせ、彼女は笑顔で男に言った。




「ねぇ、雷榎らいか…。


私、大好きだよ。この国が。

雷榎と出会えたこの国が大好き。

だから怖くないよ」




彼女は嬉しそうに笑顔で男に語り掛けた。

だが、そんな彼女とは裏腹に彼は悔しそうな顔をみせる。




「俺はこんなこと望んでない!!

お前がやらなければならない理由なんてどこにもないんだ。


…俺と逃げよう。

国なんてもうどうでもいい。

お前を失うぐらいならこんな国、滅びてしまえばいい!!」



男は彼女の手を掴み、絶対に離さないと強く握る。


そんな彼に、彼女は自分の手を乗せ安心させるように話し出した。



「そんなこと言わないで…。


雷榎と出会えたのはこの国のおかげなんだよ。

それに雷榎はこの国の王様になるでしょ?

だめだよ、そんなこと言ったら」



「そんなことどうだっていいんだ。

お前さえいれば、俺はどうなってもいいから…。


頼む、一緒に逃げてくれ」



懇願する雷榎に、彼女も少し悲しい顔をするが気持ちが変わることはなかった。



「……雷榎が治めるこの国の手助けができる。


誰かがやらなきゃいけないのなら、私がやるよ。

それが私の役目だもん」



決意のこもった声に、雷榎は彼女の意思を感じていた。


だが、それでも手放せないのだ。



彼女だけは…。


身勝手な思いだとしても、誰がどう言おうとも彼女だけは失うわけにはいかなかった。




「頼む……頼むから…。



リア………」




泣き崩れそうな雷榎をリアと呼ばれた女は、きつく抱きしめた。



「大丈夫。

私は大丈夫だよ……。





皆をよろしくね」




雷榎が顔をあげた瞬間、彼女はきつく繋がれた手を振り切り泉の中に足を入れた。




「待て!


リア!!!!」



雷榎も追いかけようとするが、泉には特殊な結界が張られ近づくことが出来なくなっていた。


必死に見えない壁をたたくが、2人を阻むそれは崩れることはない。




「大丈夫…。

私はずっと側にいるよ…。




――愛してる、雷榎」




そう言い残すと、彼女は泉に飲み込まれていった。


見ていることしかできない雷榎。




全てが終わると結界は消え、泉に近づくことが許された。




「リア…?



リア……?






いるんだろ?



……リア」





水をかき分けながら必死に彼女を探す雷榎。


だが泉は人を飲み込んだような跡はなく、底の浅いただの泉と化していた。




そんな時、雷榎の体が光を帯びる。


悔しそうな顔で、光を受け入れる彼の目は少しずつ色をなくしていった。











「お前の願いを叶えてやる…。




待ってろ、リア――――」







こうして新たなる時代が幕を開けた。



神彩華しんさいかは、新たな王を迎え動き出す。







はく30代目当主、はく雷炎らいえんが誕生した瞬間だった。






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