最終章 艦長、最終章です。
第三十話 艦長、宇宙戦です。
「…………あぁぁぁーっ、もう! カイセル、まだ合流出来ないのか!?」
当初の計画が破綻し、それどころか最悪と言ってもいい状態になってしまったディオス。癇癪を起こす彼を、カイセルは慌ててなだめる。
「もうしばらくの辛抱ですディオス様! なにより、アルテーミスはあのダメージ……しばらくは航行不能のはず……とすれば、このティーターン、エーテリオンに速さでは劣っていますが、旧型艦故に連続ワープの出来ないエーテリオンとは違い、こちらは連続ワープが可能です! つまり……」
「心配する必要はない、と?」
カイセルはコクコクと頭を振り、肯定の意思を示す。
その信頼できる部下の言葉を聞き、ディオスの顔が一瞬パアッと晴れると、いつも通りキリッとした顔つきで艦長席に深く座り込む。
「……そうか、ならば今度はこれからの事を考えなくてはな」
「どのように“彼等”をエーテリオンと敵対させるか、ですね」
「なに、簡単なことだ。衝撃で記憶を失い、あの星の奴等に利用されている、とでも言えば、どうとにもなるはずだ……問題はジャンナ達だが……」
「アルテーミスの乗員は強襲を受け投降、全て洗脳された……というのはどうでしょう。そうすれば我らのこの手傷も、命からがら逃げてきたと言えば誤魔化せるかと」
「ふふ、カイセル、お前も中々悪よのぅ」
「いえいえ、ディオス様ほどてはありませんよ……」
「何? お前、この私が悪だと言うのか!?」
「い、いえ、そういうつもりでは! あ──み、見えました、本隊です!」
二人の悪党がバカをやっている内に、お望みの大部隊がモニターへと映し出される。
「よし、連絡だ、連絡を取れ!」
「ハッ! こちらはティーターン副官、カイセル・G・ジュリア、どの艦でもよい、聞こえるか!」
『アルパイス艦長、ウルカ・ファウストである。艦に損傷が見られるが、ディオス卿は無事であられるか?』
「は、はい! じ、実はですね──って、何ですかディオス様?」
捏造された事実を話そうと、ディオスよりもピッチリとセットされた金髪に、正装であるスーツを着こなすウルカ卿に向かって口を開くが、それをディオスは無言で肩をつついて止めさせる。
「話すなら他の艦にしないか? ウルカ卿、嘘とか見抜きそうだし……」
「たしかに……鋭い方ですからね。非侵略派で仲もあまり良くないですし……すみませんウルカ卿、他の艦と代わってもらえないだろうか」
「ふむ……わかった」
ウルカ卿は内心疑問を抱きつつも、毅然とした態度で話を聞き入れ、言われた通りに部下に指示を出した。
そして、モニターに次の貴族が映し出される。
貴族というよりは“海賊”というのが正しい風貌ではあるが……。
「俺だ、アルレウス艦長のブラム・ディム・ブラッドペインだ!」
「ぶ、ブラム卿……」
ローメニアおいて貴族とは昔から、名声のあるもの、知恵のあるもの、力のあるものがなることを許されるのだが、このブラムと呼ばれる男は、その乱れた赤毛、破れた服装、獣のような顔つきから、力によって貴族となったことは、誰の目にも一目瞭然であった。
つまり、話などまともに聞けるはずもないので……。
「他の艦と通信をお代わり願いたい」
カイセルは即刻次の者を呼ぶようにブラムへと頼んだ。
「あぁ!? テメェ、ぶっ殺されたいか!! 俺じゃダメだってのか? あぁん!?」
「ひっ!」
カメラ越しから伝わる殺意と威圧感に、思わずカイセルは机の下へと隠れる。
「す、すまないブラム卿。だが、今回は少々難しく長い話になる……だから、君のその熱意は戦闘で発揮してもらいたいのだが……駄目だろうか?」
「あー……? あー……了解した。少なくとも戦えるってなら文句はねぇ、代わるぞ」
彼の欠点は、やはり戦闘狂故に学問的分野が壊滅的なことであり、戦い以外の話を聞くということにおいては、九割以上を理解できないほどである。
自身もそれが苦手であるということを理解しており、ブラムは仕方なく次の相手に通信を回した。
「ただいま代わりました。ディオス様、ご無事そうで何よりです」
「ああ、えーっと……カイセル、カイセル」
眼鏡をかけた会社員のような相手を前に、ディオスは艦長席の横にいるカイセルの名を小声で呼んだ。
「何ですかディオス様」
「アイツ、名前なんだっけ……?」
「えーっと、たしか……アルヘルメー艦長のアルゴ・タレリアですよ。ローメニアの内政を、王無きこの十二年支えられたのは、彼の力があっての事……まあ、他二人に比べて些か地味ではありますが」
「ああ、そうだったな……いつも部屋に籠って仕事をしているせいで、三十路半ばの今もまだ独身の奴だったか」
「誠実な方ですが……やはり地味ですからね」
「ディオス様、どうなされましたか?」
よもや、画面の外で自分の事をアレコレ言われているとも思わないアルゴは、ディオスの事を気にかけて声をかける。
「い、いやなんでもない。ところでアルゴ、一つ急ぎの話がある」
「話、ですか。何でしょう」
「……コホン。残念な事ではあるが、アヤセーヌ姫は敵の惑星で洗脳を受けていた……」
「なんと、それは本当ですか?」
「ああ……その際、ジャンナは私達を救うためアルテーミスと共に虚を突かれ敗れた……もし生きていたとしても、おそらく洗脳されているやもしれない……とにかく、エーテリオンは敵だ! 発見次第即事迎撃を──」
「えーっと、エーテリオンと言いますと、後ろにいるアレですか?」
「…………なに?」
ディオスはモニターがないにも関わらず、思わず後ろを振り返る。
しかし、確かにディオスの向く方向からは、1隻の白色戦艦がワープゲートから姿を見せていたのだ。
……
「目標発見、ティーターンおよび他の艦隊、合流しているようです」
「多いわね……反応次第で戦闘になるわ、逐次準備して!」
「……あー、艦隊、展開を開始。ちょーっと遅かったみたいですね」
「チッ、見積り甘いじゃないのジャンナ。こうなったらプランBよ!」
「あ? ねぇよそんなもん」
大艦隊を前にしても、命がいつもの調子を崩すことなく、カグヤの指示をサラッと茶化す。
「あるでしょうが! 事前の作戦会議で話したでしょうが‼」
「命ちゃん、毎度の事ながらふざけてる場合じゃないと思うんだけど……」
「ふー。それもそうですね、準備ならできてますよ、艦長」
命はパパっとキーを打ち込み、あらかじめ用意していたプログラムを起動させた……。
Aエーテリオンがいつも通りながらも準備をする一方で、ティーターンも着々と応戦準備を済ませていた。
「まさかこんなに早く追い付いてくるとは……だが、少々遅かったな。私の勝ちだ!」
「戦闘は彼等に任せて後方に下がりましょう、ディオス様」
「それが一番ではあるが……鍵を手にするのが優先だ、例の機体は用意できているな?」
「無論です……」
「カイセル様!」
「何事だ!」
「エーテリオン、巨大ホログラム使用し、オープン回線で演説を始めました!」
「なんだと!?」
モニターに現れたのは、エーテリオンよりも巨大な姿として君臨したローメニアの姫、アヤセーヌこと、カグヤの姿であった。
「私はローメニア星現王女アヤセーヌ・ルーナス・ローメニアである。今回の一件、全てはそこにいるディオス・N・バックスによって仕組まれた事であり、我々の敵は他でもない、奴等である!」
「ほう……」
ブラムを除く二人の貴族は、カグヤの放つ言葉に興味を向け、耳を傾ける。
「諸君らは私が洗脳されただのと根拠のない戯言を吹き込まれたと思うが、それは真っ赤な嘘である。奴はこの私の記憶を消し、更には洗脳し、奴隷にまで貶め、ローメニアの封印された力を独占しようとした極悪人であり、ローメニア繁栄を脅かす敵であるのは明白である! この話を聞き、尚も奴に肩入れし、我々と戦うと言う者がいるのならば、こちらも容赦はしない……だがもしも、私の事を信じるというのならば、この戦場から直ちに退け!」
姫としてのカグヤの声に対して、三人の騎士はそれぞれの意思を示すように艦を動かしだす。
「ハッ! 真実なんてどうでもいい、戦えるんなら戦闘だ、ヒャッハァー!!」
「くっ、艦を退け! そして、ディオス卿には真実を問わなくてはならない」
「この場に停止。洗脳され、立場を利用している可能性がある、出方を伺い行動を再開する」
三人はそれぞれが思うがままに行動し、その結果は見事に三つに別れた。
「……艦長、ティーターンを除き、一艦が前進、一艦が後退、残り一艦は停止しました」
「全員まとまってくれればよかったんだけど……焔!」
「準備出来てる、いつでもいいぜ!」
「だったら、とりあえず半分は落とすわよ!」
「本当にいいんですか?」
「戦力差があるのに後手に回ったら勝てないでしょ! 先手必勝よ」
「演説……結構効いてると思うんですが。ま、分かりやすい方がいいんですよね、艦長は」
命は、ニヤリといつもの悪い笑みを浮かべ、机からトリガーを引き抜き前方へと構えるカグヤを横目で確認する。
いつもの事だ、もう止められない。
久々の、それも新型となった戦艦の戦略砲のトリガーを手に取った彼女を止められる者などいないのだ。
艦前方に出ていたホログラムが消えると、そこにはバスター砲の準備を終えたエーテリオンの姿があった。
ローメニア姫による演説は全て、このための時間稼ぎでしかなかったのだ。
「エーテリオンより高エーテル反応──バスター砲チャージ完了しています!」
「なにっ!? 回避しろ!」
「くそっ、こっちも回避だ!」
「エーテリオン──ブラスタァァァァァーッ!!」
アルテーミスとの合体により増えた砲門、エーテル量、そして強化された砲身により、元のエーテリオンバスターとは比にならないほど強力な閃光──エーテリオンブラスターが宇宙を駆ける。
光は先陣を切っていたアルレウスを掠め、展開途中だった数百のアモールをも全て飲み込んだ。
「くっ、ヤバイよキャプテン、レウスの三割がぶっ飛んだ!」
「うるせぇ、んなもん見ればわかんだよ!! とっとと立て直して無事な機体を全機出せ! 残ってるアモールも全部だ!! 俺もトラキアで出る、全部出したらテメェらは火ぃ消して後ろ下がれ!」
「ラジャー!!」
舵を取るビキニのお姉さんはブラムの指示に従い、消化作業を各員に行わせながら艦から搭載機を出撃させていく。
「み、見ろ、やはり奴等は洗脳されている! お前達も早く戦闘に加わるのだ!」
「くっ、まさか姫の姿を使い卑劣な罠を仕掛けるとは……アルパイス前進せよ! あのような奴等、私が出るまでもない、このまま私は指揮をする。各機出撃せよ」
「ふむ、真実は分からないが、このままと言うわけにもいかないか……アルパイスの後ろを航行、微力で構わない、無理しない程度に戦闘に加わり、気楽に戦ってくれ」
「この俺に不意打ちとは面白ぇ、久々に骨のある相手みたいだな……ハハハッ」
激昂する者、思慮深い者、嬉々とする者、そしてそんな三人に慌てて命令を下すディオスとの、初の宇宙戦闘が始まった。
「なあカグヤ、やっぱりあのまま演説しとけばなんとかなったんじゃないか?」
「ハッ、ディオスに簡単に騙されるようなバカなんて、知ったことじゃないわよ!」
お前もその一人だっただろう。飛鳥は発進準備を整えながら、ティーターンに乗ったカグヤのことを思い出す。
「まあいいか……神野飛鳥、出るぞ!!」
バスター砲形態により前方カタパルトが使用できない為、後ろ向きに取り付けられている第三カタパルトからアマツは宇宙へと突入した。
「これが宇宙か……ヘッ、いつもより動きやすいな!」
「またアイツは勝手に……」
「こちらも新型だ、追いつけるさ──神崎刹那、参る!!」
見た目が大きく変わらないスサノオとツクヨミ。しかし、その中身はキチンと新型のアルテリアスへと変貌し、性能は天と地ほどの差が出来ていた。
「最近良いとこ無しなんだ、久々に暴れるぞ!!」
「言われなくてもわかってんだよ!!」
「ああ……またこの隊か」
「大丈夫、私が守るから」
「……庇って死ぬとかは止めろよ?」
「その時は代わりに三蔵が庇ってくれる?」
「……それ、俺を庇う意味ないよな? 結局被弾するの俺だよな!?」
「「うるせーぞタコ!!」」
零と宗二どころかシャロにまで振り回される三蔵は、思わず頭を抱え、胃に穴が出来ないか心配になった。
「武装が増えても機動力が上がっている、これがアルテリアスの力か……」
「行きましょう、相馬さん」
「ああ。緑川、黄瀬、そっちは行けるか」
「問題なし」
「大丈夫です!」
「よし、ではいくぞ!」
動く武器庫と化していたレッドを筆頭に出撃する相馬達。カラフルな四機は黒一色の宇宙であっても目立って見えている。
「ジル、レイ、リーヴェスの準備はいいな?」
「動作異常ありません」
「こちらも大丈夫です」
「奴にリーヴェスの扱いだけは遅れを取るわけにはいかないからな……全力で迎撃せよ!」
「了解!」
ヘイラー、ガメイラ、テレイアは本来の適性通り、宇宙専用武装であるリーヴェスを新たに機体へと取り付け、第四部隊としてエーテリオンメンバーの後ろを追うのであった。
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