第二十三話 艦長、姫です。
「飛鳥!? どういうつもりだ!」
「こっちにも色々あるんだよ……とにかく、アイツに手出しはさせねぇぞ!」
ヘイラーとスサノオの間に入り込み、スサノオに攻撃を止めさせると共に、ジャンナの行動を抑制する飛鳥。
「……わかりました」
不穏な空気の中、命はポンと手を叩きそう呟いた。
「分かったって、なにが!」
「飛鳥さんの行動です……おそらく飛鳥さんは──」
命の言葉に一同が固唾を飲み込み、次の発言を緊張と共に待つ。
「先ほどの無人島で美少女と遭遇。そこで禁断の関係に発展したものの、彼女は敵の宇宙人だった。俺に彼女を撃つことはできない、例え仲間に銃を向けても俺は彼女と添い遂げる……みたいなのかと」
「そんな事で俺が裏切ると思ってるのか!」
事件の中心人物である飛鳥が命に向かって文句を送りつける。
──だが。
「なるほど、あのヴァカなら一理あるわね」
「カグヤ?」
「たしかに、駆け落ちとか、たった一人の女のためとか、そういうシチュエーション好きそうですもんね……」
「光?」
「ま、飛鳥らしいったら飛鳥らしいな!」
「焔?」
「お前が冗談でもその気なら、俺だってお前を撃つ!」
「大輝……ッ! テメェら揃いも揃って俺をバカにして! 誰があんなババアのためにお前らを裏切るか──っとぉ!? 何すんだよジャンナ!」
全員の思い込みに反論を叫ぶ飛鳥の背中を、ジャンナのヘイラーが容赦なく狙い撃つ。しかし、さすがは飛鳥、見もしないで直感でそれを回避する。
「誰がババアだ、私はまだ22だ!!」
「マジかよ……って、撃つな撃つな! こっちには姫が乗ってんだぞ!」
「知ったことか!」
「おい!! って、後ろからも!?」
ジャンナの怒りを避けていた飛鳥の背後から、今度はスサノオの攻撃が飛んでくる。
「大輝、飛鳥は既に錯乱しているわ! 威嚇じゃなくて落とすつもりで撃ちなさい!」
「綾瀬さんはどうするんだよ!」
「大丈夫よ、こういうのは撃墜しても人質は助かるってのがお約束なんだから!」
「何がお約束だ! エーテリアスのコックピットブロックはそんなに頑丈じゃねぇんだぞ!?」
「大輝さんの言う通りですよ、艦長!」
「うるさいわね、だったら私が代わりに撃つわよ!」
「落ち着けってカグヤ、主砲で撃ったらそれこそ助からねぇんだから」
「だったらバスター砲よ、下手な攻撃より謎生存するわよ!」
「艦長、現実と架空の区別はちゃんとやってください」
「いつもゲームしてるアンタには言われたくないわよ!」
「お前らさっきから撃つ、撃つって、本人の聞こえてるところで言ってんじゃ──くそっ、マジで当たったらどうすんだ、このッ!」
「撃ったな貴様! やはり私を撃つための罠か!」
「正当防衛だろうが! そもそも先に撃ったのはお前──チッ、下手くそが邪魔すんな!」
「だれが下手くそだ、このバカ飛鳥ァァァーッ!!」
「やるってんなら容赦しねぇぞッ!」
「本性を現したわね、こっちも撃つわよ! スサノオの援護!」
「だから撃てねぇって──!」
「──!!」
「──!!」
通信回線を通して敵からも味方からも攻撃的な言葉が飛び交い、また飛鳥自身も時に叫び、戦場の空気は荒れ、次第に混沌としていった。
そんな時、この空気を打破しようと一人の少女が声を発した。
──綾瀬だった。
「みなさん、落ち着いてください!」
「綾瀬さん……?」
「私を支えてくれるんじゃなかったんですか? そんな状態では誰も支えられませんよ」
「うぐ……すみません、熱くなりすぎました」
後ろから優しく声をかける綾瀬に、思わず顔をうっすら赤くして反省の言葉を述べる。
「ふふ……飛鳥さん、出撃の前に言いましたよね、戦いを止める為って。私がそのために必要なんですよね?」
「…………はい」
「どうすればいいんですか?」
「アイツに、綾瀬さんの帰るべき場所に連れていってもらえば……」
「帰るべき……場所?」
覚えていないのも無理はない、飛鳥は無言で首を縦に振ると、綾瀬の声により攻撃を中断したヘイラーの前に立ち、ハッチを開け、綾瀬と共に外へ立つ。
自動操縦とはいえその高度は高く、打ちつける風は冷たく、痛い。
「ジャンナ、彼女が姫だ!」
「……」
飛鳥の行動に合わせ、ジャンナもハッチを開け飛鳥達と対峙する。
「……はじめまして。姫乃川綾瀬です」
「……ジャンナ・D・ローゼス」
互いに名前を名乗り、後は少し悲しいが綾瀬を連れて、ジャンナは去っていく。そんな流れを予想していた飛鳥に、ジャンナは声をかけてきた。
さっきの文句か、それともお礼か──飛鳥は耳をすまして彼女の声を聞く。
「──で、彼女は誰だ?」
「……は?」
「は、ではない。誰だこの女は、と聞いている」
「誰って、姫だよ、姫! さがしてるのはアヤセーヌ姫なんだろ? 彼女の名前は姫乃川綾瀬、姫でアヤセなんだぞ?」
「記憶が消えている人物が、本当の名前を覚えているわけがないだろうが!」
ああ、ごもっともな意見で。自身のバカさ加減に思わずハッチの上で自信を喪失する。
「それじゃあ、一体誰が姫なんだよ!」
「誰がなどは知らん──これから調べれば充分だ!」
ジャンナが怪しさを含んだ発言をすると、命のディスプレイにキャッチされた反応が表示される。
「後方からエーテル反応──これは……転移。でもこのサイズは……」
エーテリオン後方から発生した光のリングは、エーテリオンと同じほど巨大なワープゲートであり、そのゲートから突如ヘイラーと同色の戦艦が姿を現した。
『貴艦は本艦アルテーミスの主砲により、即時撃沈の用意が出来ている。大人しく降伏せよ、繰り返す……』
「……艦長」
「…………チッ!」
使える武装、EG、作戦を考えるカグヤだったが、どう足掻いても急に作られたこの詰みの状況に、カグヤはただただ舌を打つだけで、大人しく降伏の選択を選んだ。
……
エーテリオンがアルテーミスに対し降伏を受け入れると、エーテリオン乗員を一ヶ所に集めるようにジャンナから指示が入り、一同は大人しくそれに従った。
「これで全員か」
「そのようですジャンナ様」
「抵抗する者はいませんでしたので、命令通り拘束はしておりません」
ジャンナの側近であり、頼れる右腕、左腕に値するジル・ド・リリィと、レイ・ド・リリィはジャンナへの報告を二人で済ませる。
「それで、姫は見つかったんだろうな?」
「ああ……それにしても酷い顔だな」
「余計なお世話だ」
飛鳥の顔面には二発の殴られた痕跡があった。帰艦後すぐに大輝から一撃を喰らい、降伏を受け入れている最中にも関わらずブリッジに呼ばれてはカグヤにグーパンチを喰らわせられていた。
「話はだいたい聞いたわ。それで、家出した挙げ句記憶喪失になって、戦争を引き起こしたアホのお姫様は一体誰なのか教えなさい! 言った瞬間カタパルトにくくりつけて射出してやるから!!」
初の黒星にイライラがピークに達していたカグヤはボロクソに姫のことを罵倒しながらジャンナにへと問い詰める。
「……自身をそう悪く言うものではありませんよ姫様」
「どう言おうが私の勝手──……今、何て?」
「端的に申しますが……貴女が姫です」
ジャンナは膝を地面に着け、カグヤを崇拝するように
「マジかよ…………じゃあカタパルトの準備するか、カグ──」
「ふんっ!!」
「ぐあぁぁぁーっ!!」
余計な一言を呟いた飛鳥は、三度目のグーパンチを顔面にお見舞いされるのであった。
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