第二章 艦長、人類決戦です。
第十一話 艦長、海です。
地球外の侵略者──WCから自国を守るため建造された遊撃戦艦エーテリオン、彼らは今……。
「もっと右だー!」
「左よ、左!」
「そこか! 月下神斬流三の型──三日月!!」
彼らは今!
「あははー!」
「ヒャッホー!」
「……」
「……」
「凛さんも泳ぎませんかー?」
「命も外まで来てなんでゲームなんだよー!」
彼らは今!!
「気持ちいいぃぃぃーっ!!」
「やっぱり夏は海よねー」
海に来ていた!
──ハワイの。
「か、カグヤちゃーん」
「何よ、こっちは海で遊んでんのよ? 少しは空気読みなさいよ!」
日本総理大臣月都帝は恐る恐る娘の月都カグヤに連絡を取ったが、予想通り強い剣幕で返事が返ってきた。
「ごめん、ごめんってば! で、なんでWCもいないのに、ハワイにいるのかな?」
「一、WCが来ると思ったから。二、エーテリオンの空調が壊れて暑かったから。三、一度行ってみたかったから。以上」
「主な理由は二と三だよね、絶対……」
「別に今さらどこへ行こうと関係ないじゃない。それじゃ、私一泳ぎしてくるから、もう変な理由で連絡しないで」
「あ、待っ──」
まだまだ言いたいことがあった帝だったが、カグヤはそんなものに耳を貸すつもりなどかけらもなく、通信を切り、海へパタパタと走っていった。
「まったく月都カグヤめ、何故こんなところへ来なければならないんだ……全くもって無駄な行為だ」
「それもそうかもしれませんが……たまにはいいじゃないですか、相馬さん。せっかく海にまで来て何もしないというのは、それはそれで時間の無駄ですよ」
「それもそうかもしれないが……まあ、君は端から泳ぐ気満々のようだが……な」
常夏の地にも関わらず、制服姿で南国ビーチに立ちながら文句を言う赤城相馬は、隣に立つパレオ姿の葵貴理子を横目で見て呆れたようにぼやく。
これ以上彼女の水着姿を見続けていたら、目が釘付けになりそうなスタイルだったので、純心な相馬はサッと赤くなった顔を反らす。
「泳ぐなどそんなつもりでは……」
「ではなぜ着ているのだ」
「それは……あー、泳ぎたいからです! ええ! 私、泳いで来ます‼」
着替えの意図が相馬に伝わらなかった事が恥ずかしくなった貴理子も顔を赤く染め、照れ隠しとして海目掛けて悔しさと共に駆けていくのであった。
……
「なあ……大輝」
「どうした飛鳥」
神谷大輝と神野飛鳥はパラソルの下で、体育座りの姿勢のまま視線を右へ左へと絶え間なく動かしていた。
もちろん彼らがマリンブルーの海やハワイアンな景色に興味などあるわけがなく、その目には水着姿の女生徒が色鮮やかに彩られていた。
「生きててよかったな」
「ああ、まったくだ」
初っぱなから舐めるように見てはガードが固くなると予想した大輝の案により、二人は先行して少し泳ぎ、その間、遊びに夢中になり始めた頃から海から撤収し、観察を始めたが……効果はバッチリと現れ、誰もその姿を隠そうというものはいなかった。
みんな肌色率の高い水着姿でキャッキャウフフと楽しんでいるのを、二人はヒャッヒャムフフと愉しんでいた。
無論、その眼福すぎる光景のおかげで二人は体育座りの姿勢を崩せずにいる。
そんな二人の様子を見抜き、一人の少女が後ろから声をかけた。
「さすが元覗きの主犯格ですね、飛鳥さん」
「み、命……な、何のことかな? 俺たちはハワイの風景をだな……って、何でスクール水着なんだ?」
「私のようなツルペタクールキャラの鉄板かと思いまして着てみました。泳ぐ気は更々ないですけど」
泳ぐ気がないなら何故そんなものを着たんだ、と思う飛鳥の事など気にもせず、紺色旧スクール水着姿の命はシートの上に座るため、飛鳥の隣に寄り添うように体育座りをする。
その手には横長でクリアブルーの携帯ゲーム機を持っており、座ると同時にプレイを再開する。
「命、クールキャラは普通自分の事をクールとは言わないと思うぞ……?」
「それは主人公が自分の事を主人公と言わないのと同じじゃないですか?」
「……すみません、クールでいいです」
あまりに的確な返しに、思わず飛鳥も敬語で謝罪する。
この論を通してしまえば、自分の主人公という立ち居地がなくなってしまうからだ。
「じゃあ、私も飛鳥さんのこと主人公と認めてあげます」
「お前はどんだけ上から目線なんだよ……まあ、認めてくれるのはありがたいけどな」
「お前にプライドはないのか、主人公として」
「わかってないな、大輝……主人公に必要なのはプライドじゃない、力と──人気だ!」
お前はこんなことで得た人気でいいのか? と、問いかけるように飛鳥を見る大輝だが、その自信満々な態度を取る少年に何を言っても無駄だと悟り、開きかけた口を閉じた。
──実際半分は達成してるわけだし……。
「ちょっとアンタ達、いつまで休んでんのよ。海は今日一日だけなのよ? 休むなら帰ってからにしなさいよ!」
「いいだろ、好きに楽しんだって」
「バレてないつもりでしょうけど、さっきからチラチラ見てるのぐらいわかってるんだからね! ほら、とっとと立って……」
「あ、バカ! 今は──」
見かねたカグヤが座っていた飛鳥を引っ張り上げ立たせると、同時に飛鳥の若さゆえに勃たせているアレをカグヤは目撃する。
その後少し顔を赤くしたカグヤから、張り手が飛んでいくのは、もはやラブコメの予定調和とも言えるお約束であった。
「あんたバッカじゃないの! 死ねっ、死ねっ、死ねっ!!」
お約束と少し違うとするならば、ダウンした相手に何度も蹴りをいれるところだろう。
動かなくなった飛鳥を見ると、カグヤはフンと言い捨てて、皆の待つ海へと戻っていった。
……
そんな、青春の1ページをみんなが刻んでいる頃、エーテリオン艦内の一角では……。
「あーあ、いいなぁ海……二人共本当に行かないんですか?」
「しつけーぞ三蔵、いかねぇって言ってるだろうが!」
せっかくの海だというのに、一向に行く気配を見せずに艦内で居座る一之瀬零と阿久津宗二に合わせて、桑島三蔵は一緒に残っていた。
「そんなに行きたきゃ勝手に行け、私は行かない」
「俺もだ」
「……わかりました、では勝手に行かせてもらいます」
長い時間二人に合わせていた三蔵は少し怒ったように言い、それで相手が怒っても困るので、サッと部屋から出ていった。
「…………」
(私が行ったらみんな怖がって楽しめないだろうし……)
(僕が行ったらみんな怖がって楽しめないだろうし……)
(でも、よりによってこの人と二人っきりかぁ……)
損な役回りの二人は周りに迷惑をかけまいと思い艦内に残る一方、そんな相手の事も知らずに互いに無言のまま牽制するように睨み合っていた。
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