魔力零の竜狩人

東洞院咲夜

第一話 新たな出会い 

…零と0は似て非なるものだ…宿命の歯車は回り始めた…



 『敵車両撃破!』


そんなボイスが流れる。月明かりがパソコンの画面を照らす中、氷月光は無言でゲームに勤しんでいた。


 (これで全部か…)


画面を見ると勝利の文字が映る。しかしあまり満足している訳でもない。というのも光は学校に行く以外の時間を全て費やしていた為、少々飽きが来ていた。


 (そろそろ他の車両に乗り換えるか…)


画面には少し古びているが、特徴的な形状の車両が並んでいる。もちろん実在するものばかりだ。


 (もう少し主砲の口径が大きい方がいいな…)


そう考え、ある車両に目をつけた。車両を購入し、性能を確認していると…

    

 「光!まだ寝てないの!?何してるの!」


ドア越しに母親の怒鳴り声が聞こえてきた。


 (ちっ…こんな時間だってのにいつまで起きてんだ…あのクソ親が…)

 

そう思いつつ、


 「明日の調べ物だよ…もうすぐ寝る。」


感情を抑えつつ返事する。嘘がバレないコツは冷静である事。光にとっては当たり前かつ慣れた事だ。


 「早く寝なさいよ!」


それだけ言うと母親は先に床についた。光はそれを確認して再びパソコンに向かう。起床まで時間が無いので徹夜するつもりだ。新しく購入した車両を乗り回していると、いつの間にか朝日が差していた。


 (また面倒で腐った一日が始まるな…)


そう思いつつ、朝支度を済ませる。


 「じゃあ…行って来ます」


眠そうな母親にそう言いながら光は家を出た。いつも通り駅に行き、電車を待つ。そんな日常すら光にとっては面倒でしかなかった。


 (電車に飛び込んで死ぬ方が楽なんじゃないのか…だがそれはそれで腹立たしいな…)


自殺願望がふと頭をよぎる。しかしそうしない理由がきちんと在るのだ。しかしそれを意識していては疲れるので普段は何も考えないように努めていた。


 (徹夜明けはメンタル的にも疲れるな…はぁ…)


溜息をつきながら到着した電車に乗り込んだ。当然満員である。むしろ座れる事のほうが珍しい。座れた時はもちろん睡眠だ。

 疲労を残しつつ登校した光は早速自分の席で寝る。友人なども居ないので休み時間などは全て寝て過ごす。授業であっても聞く価値がないと思うものは全て寝る。当然ながら教師には気づかれないようにだ。しかし試験となると高得点を取るので問題は無い。結局この日も全ての授業を寝て過ごした。


 (おかげ様で体力もそこそこ回復したな)


首や肩を回しながら帰り支度を済ませて誰よりも先に帰る。なるべく誰とも接しないようにしていた。光にとっては他人などどうでもよい。


 (ちょっと喫茶店で時間潰すか…)


時計を確認するとそのまま喫茶店に入りコーヒーを飲む。あまり早く帰宅するとこれまた面倒な事になる。というのも学校では放課後に自習などが奨励されている。早すぎる帰宅は親に学校で不真面目と判断されかねない。


 (そろそろ帰るか…)


すっかり日が落ちた頃、光は帰路についた。いつも通りの帰宅。何も変わった事はない。帰宅したらいかにして親の機嫌を取るか、それのみが光の脳内を支配していた。幸いにも前に実施された全国模試で全国一位を取っている。


 (まぁこれならいいだろ…多分…)


そう思いつつ帰宅した。


 「ただいま」

 

 「おかえり。今日は学校で何かあった?」


いつもの質問という奴だ。ちゃんと答えないと面倒な事になる。


 「模試が返って来たよ」


 「見せなさい!」


成績の話となると途端に表情が変わる。まるで疑念の権化とも思える形相だ。光はすぐに成績表を渡す。普通は一位を取ったともなれば意気揚々と報告、となるのだろうが氷月家では全く当てはまらない。


 「さっさと復習しなさい!碌な成績でもないくせに!」


褒めるどころか怒られる。これがこの家の『普通』だ。


 (あの程度で済んだならよしとするか…)


そう思いつつ光は自室に戻った。その日の夕食の席では父親にも延々叱責された。これも毎度の事だ。夜中にはまた部屋でゲームに没頭していた。


 (今日はもう切り上げるか…)


説教を受けるのが光にとって最も疲労を溜める。布団に入ると直ぐ寝ついた。

 

 翌朝、起きると異変に気づいた。自室は自室だが、窓の外の景色がまるで違っている。さらに親がいる気配がしない。自分が起きる時には必ず起きている為、直ぐ分かるのだがまるで元から居ないかのような気配の無さだ。

 

 (親が居ない上に外の景色も見たことないな…)


そう思いながらスマホを見ると圏外になっている。地図アプリを見てもGPSがエラーを出す。それを見て、


 (異世界って奴か…)


異世界に来たという仮説を立てた光は次の行動を考える。


 (とりあえず親が居ないなら、人目を避けて少し調べてみるか…)


そうこうしていると足音が聞こえてきた。光は窓を開けそのまま飛び降りて脱出する。


 (今誰かに会うのは面倒でしかない…まずは情報が必要だ…)


光が面倒事を回避する上で最も重視するのは情報だ。外で情報を集められそうな場所を探す事にした。

(ていうか…この建物、まるで宮殿だな…)


自分が出てきた建物を振り返るとそこには立派な宮殿が建っている。建物をよく見ると、きらびやかに着飾った人影がちらほら見える。


 (明らかに服装が違いすぎる…見つかったら面倒だな…)


バレないように行動する事は光にとって朝飯前。親にバレずに行動するより難しいものはないと確信しているからだ。


 (宮殿だと仮定して、あいつらは間違いなくここでは偉い奴だな…すると?ここは高貴な奴が集まる場所だな…そういう場所には仕えるべき奴とかがいる筈…高貴な奴が仕える奴って王とかその辺か…つまりここは王政なわけか…なら、王宮に図書館位はあるだろ…)


持ち前の鋭い洞察力で推測する。見つからないように慎重に王宮に戻った。中へ入る場所を探す。壁伝いにこっそり移動していると扉があった。当然ながら鍵が掛かっている。


 (面倒だな…)


そう思いつつも錠前を見ると幸いにもダイヤル式だ。すぐに暗証番号を探し当ててドアノブに手をかける。しかし、古びているせいか軋んでいる。


 ギギッ…ギィーーー…


かなり目立つ音を立ててしまった。


 「誰かいるのか!?」


叫び声が聞こえた。光は直ぐに扉を閉め、足早にその場を離れた。


 (さて…どうするか…見たところこの王宮はゴシック様式に近いな…そのくらいの文明レベルならば本は大切に扱うはずだ…ならば…)


そう考え、なるべく扉の装飾が豪華であるか、厳重な施錠がされている扉に絞って探す事にした。


 (にしても広い…)


その広さは予想をあまりにも超えていた。果てしなく続く廊下や数多の部屋など。また講堂や講義室のような部屋も沢山ある。しかし広さの割には人気がない。


 (もしかしたら休日なのか…?)


歩きながら色々な事を考える。現状得られる情報から最大限推測して最適解を導く事が面倒事の回避には必須なのだ。すると廊下の向こうに人影が見えた。どうやらこちらに向かって歩いている。光は飾られている石像の側に隠れた。そして耳を澄ませる。


 「一体何事…?全く…」


かなり焦っているようだ。よく見ると、宝飾剣を携えている。


 (なるほど…王宮の警備兵…さしずめ近衛兵と言った所か…?声色やら見た目からして女か…)


冷静に観察しながら再び移動する。先ほどの女を見つけた辺りまで来た所でやたら豪華な扉

を見つけた。


 (もしかすると…?)


部屋の名前は書かれているものの、見知らぬ文字だ。


 (喋ってる内容は大体分かるのに文字が読めないとはな…)


肩を落としつつ扉を開けると、そこは天井まであろうかいうほど背の高い本棚で埋め尽くされた大図書館だった。


 (ビンゴ、か…)


人の気配は全くない。しかし、念の為隠れながら本棚に近寄る。適当な本を開いてはみたものの、全く読めない。


 (まぁ…英語や国語の模試で全国一位取るよか簡単だろ…)


そう思いながら、周辺から適当に本を選び出し解読にかかる。たまたま持って来ていたスマホのメモ帳に単語を入力していき、ひとつひとつの意味を考える。


 (取り敢えず、今日はここで過ごすか…)


図書館の隅っこに隠れながら本を読む。


 (まるで中学の頃の俺だな…)


少し過去を思い出しながら解読を続けていく。気づけば日が傾き、夜になっていた。


 (全く…夜にはなったが…寝床はどうするかな…まぁここで雑魚寝するか…)


ずっと本と向き合ってたせいか肩や首がかなり痛む。疲れもあってかそのまま眠りに落ちてしまった。

 

 ゴーン…ゴーン…ゴーン…

 

 翌朝、大きな鐘の音で目が覚めた。


 (もう朝か…取り敢えず、だいたい解読はできたし、ここの基礎情報も手に入ったな…さてどうするか…)


光は今日の行動指針を決めかねていた。必要な基礎情報は手に入れたが、人と関わりを持とうなどという発想は全くない。しかし、いつまでも同じ場所に留まるのは見つかる可能性が高い。


 (取り敢えず…ここがアイリス王国の王宮で、王立魔導学園を併設しているのは分かったが…学園ということは確実に人が集まるな…一旦王宮から離れるか…)


光は本を棚に戻して直ぐに外へ向かった。

 

 (にしても、この世界には魔法が存在しているんだな…ということは俺の存在もすぐバレそうなものだが…)


この世界における魔法はかなり万能性が高い。実行したい内容を思い浮かべるだけで良いのだ。もちろん出来る事や出来ない事はあるし、実行した結果の質も人によるが、魔力が高い者はより高度な内容を実行できるらしい。


 (まぁ…とにかく人に会うと面倒なのは確かだな…)


王宮を抜けだした光は上手く隠れながら王都を見て回った。


 (王都アイリス、か…本で見たが、かなり発展しているな…魔法があればこそということか…まぁこの世界では誰でも魔法が使えるらしいが…)


そこまで思案したところで気になる点が出てきた。


 (俺は魔法が使えないのか…?)


この疑問を解消すべく、近くの森に行き試す事にした。


 (実行したい内容を思い浮かべる…取り敢えず何か食べる物でもイメージしてみるか…?)


できるだけ具体的にイメージしてみたものの、何も起きなかった。


 (この世界における魔法が行使出来ない事こそが俺が異世界人だっていう証拠だろうな…)


妙に納得してしまった。しかし、昨日から何も食べていないのでさすがに活動限界というのも本音だった。


 (何か探すか…そこら辺に果樹くらいあるだろ…)


森を歩いていると、りんごに似た果実をつけた木を見つけた。


 (丁度いい…食べて見るか…)


一つ採って齧ってみる。


 (甘くて美味しいな…)


光は基本的に食べる量は多めだが、少ないからと言って気にする事もなかった。


 (さてと…これからどうするか…)


時間はまだ昼下がりといった頃合いだ。


 (昼寝でもするか…久々の贅沢だな)


氷月家では昼寝は許可制だったのだ。親を気にせずできる昼寝など贅沢と言う他ない。木の根元に腰掛けて、そよ風に当たりながら光はゆっくり休むことにした。

 

 (あそこに誰かいる…)


少女が寝ている光を見つけ、近寄ってみる。顔を覗きこむと自分の髪が光に触れた。


 「ん…?」


違和感を感じ目を開ける光。目の前に漆黒の髪が映える少女がいる。


 「誰だお前…?」


まるでどうでもいいが、しかし一応は聞いておくという風に尋ねる。


 「私は青蓮院紫音…」


光はその名を聞いて心当たりがあった。


 「青蓮院って言うと、日本の名家だな…財界や政界に影響力があるんだったか…」


 「そう…」


 「で、あんたは青蓮院の娘って訳か?」


 「そう…」


 「なるほどな…つまり俺と同じくこの世界に飛ばされたのか」


 「あなたは…誰?」


 「俺は氷月光」


 「覚えとく…」


驚く程お互い無表情で無感情で必要最低限のやりとり。光にとっては特に興味が出来た訳でもない。元より他人に興味を持たないのだから仕方がないが。相手が異性であっても例外はなかった。


 (面倒だな…)


光は内心、肩を落としている。


 (まぁ相手が誰だろうとどうでもいいが…とりあえずやることもないし寝るか…)


結局そのまま再び寝てしまった。

 

  「氷月光、起きて」

 

 「なんだ…?」

しばらく寝たかと思ったら直ぐに青蓮院紫音に起こされた。


 「こっちに誰か来る…」


 「だったら勝手に逃げればいいだろ…」


 「私はこの森以外の場所を知らない…だから氷月光と行動した方が得策だと思っただけ…」


 「俺は得策とは思えない。わざわざ二人で行動するメリットがない。発見されやすくなる」


 「でも迷う余地はないみたい…」


足音はすぐそこまで迫っていた。


 (他人と行動するなど面倒すぎる…だがここで捕まるのはもっと面倒だな…)


すぐに損得の天秤を頭に思い浮かべる。


 「分かった、とりあえず森を出るぞ」


それに青蓮院紫音を放置したら、自分の事もバラされる可能性も考慮に入れるとデメリットを避けるべきだと判断した。光は青蓮院紫音と共に森を抜け、王都に入った。


 「とりあえず、俺達は見られただけでもすぐ捕まるからな…」

 

 「それには同意…」


光は高校の制服、青蓮院紫音は青と紫で彩られた和服だ。あまりにも目立ちすぎる。


 「もうすぐ夕暮れだな…とりあえず寝床の確保だな」


 「同意…でもお金などはない…」


 「別に生きようと思う必要無いんじゃないのか?」


ここに来て光は極論を持ち出す。しかし、王宮内の図書館で基礎情報を得た上でもやはり生きる必要がないという結論は或る意味で光らしいとも言える。


 「理解はできる…でも同意はしかねる…」


青蓮院紫音は意外にも素直に賛同しなかった。


 「何故だ?異世界に来てわざわざ生きようと必死になる必要があるとも思えないが?」

 

 「確かに生きようとすれば面倒な事にも巻き込まれると思う…でも私はなぜここに居るのか知りたい…誰が何のために呼んだのか…」


 「知ってメリットはあるのか?」


淡々と聞き返す光。


 「私は青蓮院の家を追い出された…だから私は実質死んだようなもの…そんな私をどうするつもりなのか…ちょっと気になる…」


 「なるほどな…俺は親が死ぬほど嫌いだが…丁度親が居ない異世界に呼ばれた訳だ。確かに理由は気になる。それを知ってからどうするか考えても遅くはないか」


 「うん…だから取り敢えずは共に動こう…氷月光…」


 「わかった。後、俺のことは光でいい。苗字嫌いだからな。」


 「じゃあ…光…私のことも紫音でいい。どうせ消された身だから…」


光と紫音は行動を共にする事になるが、お互い…


 (なんだか…自分と似てる雰囲気…)


内心、少し通じあっていた。

 

 王都で泊まれそうな場所は全く無いので、光と紫音は再び森に戻って来た。


 「ここもあまり安全じゃないからな…王宮の大図書館に戻るか…」


 「光は最初に王宮の中に居たの…?」


 「ああ。自室で寝てたらどうやら自室ごと王宮内に召喚されたらしくてな…」


 「私は家を追い出されて外をふらついてたら、いきなりこの森に飛ばされた…」


 「取り敢えず、一旦俺の部屋に戻るか…使えそうなものがあるかもしれないしな」


 「わかった…」


お互いが少し知れてきたからか少しだけ口数が増える。二人は最初に光が居た部屋の窓の下に来た。


 「壁を登るしかないな」


 「さすがに私には厳しい…」


 「背負ってやるよ」


 光は紫音を背負いながら壁を登り、部屋に入った。


 「ありがとう…」


 「別に気にしなくていい。共に行動すると言ったからな」


部屋に戻り改めて今後の行動を考える。パソコンはあるが当然ながらネットには繋がらない。


 「パソコンがここまで役に立たない機械に成り下がるとはな…」


 「仕方ない…取り敢えず少し横にならせて…」


 紫音が少々しんどそうな声で話す。


 「別に良いが…体どこか悪いのか?」


一応心配している風に尋ねる。


 「元々あんまり丈夫じゃないだけ…だからよく母様にも体が弱いのを叱られた…」


 「そうか…ゆっくり休めよ…」


 (俺も昔は体よく壊しては怒られたな…そんな奴、俺以外に居るんだな…)


珍しく、光が他人にほんの少し興味を持った瞬間だった。

 

 紫音が寝てる間に光は部屋の中で使えそうな物を探した。親に隠れて色々な物を買ったり、作ったりしているので普通の高校生の部屋にはあろうはずもない物がゴロゴロしている。

 

 (エアガンとかぶっちゃけ使い物になるのか…?後は…マグネシウムリボンは使えるな…学校の化学室から拝借しといて良かったな)


使えそうな物を集めて整理する。


 (ていうかもう夜か…時計が全くないのも不便だな…)


部屋の時計は何故か午前6時半で止まっている。スマホは表示そのものが消えていた。 


 (なるほど…召喚された時間で止まっているんだな…)


疑問を一つ解決した光は整理した物をリュックに詰めていた。


 「光…起きた…」

紫音が目覚める。


 「まだそんなに時間経ってないが?」


 「これ以上寝ると、母様に怒られるから…癖…」


 「そうか」


 「驚かないんだ…学校でこれ言ったら皆、驚いた…」


 「俺も寝てる間に親にいきなり起こされて怒鳴られたり、昼寝が許可制だったりしたんだ。だから普通だな。」


さらっと答える光。


 (私と似た境遇の人が居るなんて…)


紫音は内心驚いていた。


 「他にも…成績がどれだけ良くても怒られてた…」


 「同じだな。前の模試で全国一位とったが、こっぴどく説教くらった」


 「私もその模試受けてた…全国二位だった…」


 「そうなのか。見てみるか…」


そう言いながら席次表を見る。一位は自分だ。二位に確かに青蓮院紫音の名があった。


 「他人の席次とか気にしてなかったからな…全く気づかなかったな。」


 「私もそんなものどうでもいい…いかに母様の御機嫌を取るかだから…」


 「同じだな。まさか紫音はこの模試で二位だったから追い出されたのか?」


 「それだけじゃないと思う…でもこれで堪忍袋の緒が切れたって感じだった…」


 「そうか…悪かったな…」


光は自分の親の機嫌を取れさえすれば他の事などどうでも良かった。しかし目の前にいる女の子はそのせいで家を追い出されてしまったのだ。普段なら気にもしないが、現実にその本人が隣にいる。今まで感じたこともない感情に襲われた。


 「気にしなくていい…私も御機嫌取りで許されない事をしたから…」


 「俺は他人なんか興味ない。というか親が消えるなら世界ごと破滅すればいいと真面目に思って生きてきた。全ては親の機嫌取って黙らせる為だった。でも、紫音には迷惑を掛けたのも事実だ。だから一つ提案したい。」


 「何…?」


 「紫音だけはこの世界で信用する。どうだ?」


 「じゃあ私も…光は信用する…」


 「似た者同士、上手くやれるだろうさ」


 「そうだね…」


光も紫音も久々にクスっと笑った瞬間だった。ついでに光はある事を紫音に尋ねる事にした。


 「紫音はこの世界に魔法が存在している事に気づいているか?」


 「薄々は…森で人が物理で説明できない力で木に登ったりしていたのを見たから…」


 「なるほど…なら魔法が使えるか試したか?」

 

 「試した…どうやら私は思い浮かべた物を実体化できるらしい…」


そう言いながら紫音は目を閉じる。すると右手に紫色の光が宿り始めた。


 「こんな感じ…」


目を開いた紫音の手に栄養ドリンクが握られていた。


 「なるほど…それは便利だな…」


 「あげる…これ飲めば一気に回復できる…」


 「ああ、ありがとう。徹夜する時にこれ飲むと助かるんだよな。」


そう言いながら光はグビっと飲み干した。


 「一つ頼んでいいか?」


光はある事を思いついた。


 「いいよ…?」


光はエアガンを見せる。


 「こいつの本物を実体化できないか?」


 「なるほど…武器を手に入れれば行動に幅が出せる…」


光も紫音も目的の為ならば手段は選ばない。人を殺める事さえ必要ならば別に構わないだろう、本気でそう考えていた。


 「できそうか?」


 「これの詳細な情報が欲しい。名前とか構造とか…」


 「なるほどな。何事もまずは情報、だな」


光は早速資料を引っ張りだす。エアガンを買うと必ず実銃について調べて纏めていたのだ。


 「これがパーツの図解だ。」


そう言いながらファイルを手渡す。


 「パーツ単位で実体化させるのでいいなら出来そう…」


 「問題ない。俺が組み立てる。」


 「分かった…じゃあやる…」


早速紫音がパーツを実体化させ始める。スライド、マズル、バレル、エジェクター、ハンマー、ファイアリングピン、グリップ、マガジンなど必要なものが出揃う。


 「これで全部…」


 「凄いな…後は任せろ」


光は素直に感心していた。そしてパーツを組み上げる。


 「でも光も凄い…」


組み上げるスピードや迷いの無さに紫音も驚嘆する。青蓮院家の者としてあらゆる英才教育をされている紫音でさえ、日本人である以上は実銃に縁など無かった。


 「どんな知識でも持っていれば使いようがあるさ」


そう言いながら光はすでに組み上げ終わっていた。そこには新品同様の綺麗なシルバーのベレッタ92Fが姿を見せている。


 「これが…銃…」


紫音が興味深く見つめる。


 「でもこれは拳銃…さすがに武装としては物足りない気がする…」


紫音がもっともらしい指摘をした。


 「確かに、拳銃一丁じゃ足りない。だがこの世界は魔法に頼った世界だからな。科学技術が一切発展していない。そこに人を一撃で殺せる武器なんて登場したら怖気づくだろう」


 「でも魔法でも人を殺せる気がする…」


実行したい内容をイメージすればそのままその通りになるのならあり得る話だ。


 「それはないな。もしそうなら今頃この国は滅んでるはずだ。人間は欲を追い求め始めると結局、戦争と言う名の殺し合いに発展する。それに図書館の本にも書いてあったが魔法は万能じゃない。」


 「なるほど…ついでに弾を沢山作っておいた…」


そこには大量の9mmパラベラム弾の箱詰めが積まれていた。


 「喋りながら魔法で弾作れるのか…凄いな…ただ…」


 「ただ…?」


 「マガジンも増産してくれ。その方が扱いやすい」


 「分かった…」


その後、紫音が弾とマガジンを作り、光が装弾するという作業だけで夜が更けていき、いつしか二人共眠りに落ちていった。

 翌朝、鐘が鳴る前に光は目が覚めた。紫音は既に起きていた。


 「おはよう…光」


 「ん…?あぁ…おはよう」

 

挨拶される事など皆無な光にとっては新鮮な目覚めだった。


 「取り敢えずどうするの…?」


紫音が行動指針を尋ねる。


 「この王宮には学園が併設されているんだ。だから早めにどこかに移動する方が得策だ。それに最初にここに来た時も誰かが部屋に来たからな。」


 「部屋を出てどこ行くの…?」


 「流石にこれ以上逃げてたら捕まるだろうからな…」


 「むしろ…今までなぜバレなかったんだろう…」


 「ここは王政だからな。王の声で全てが動くはずだ。だから可能性は二つある」


 「私は一つだと思うけど…」


 「ここは異世界だからな…常識に囚われたらダメだ。可能性の一つは紫音も考えている、王がなんらかの目的で俺らを泳がせている場合。これは相手にすると厄介だ。」


 「うん…でももう一つは…?」


 「王が余程のバカな場合。これならやりようはいくらでもある。」


 「流石にそんな事は…」


紫音があり得ないと言いたげな表情だ。


 「異世界だからこそ考慮する可能性さ」


光は至って冷静に思慮する。

 

 「とりあえず、王とやらに会いに行こう。何かしら聞き出せるだろう」


 「分かった…」


 「さて行くか…」


光と紫音は音をたてずに部屋を後にした。

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