毒視姫《どくみひめ》の憂鬱

ことは りこ

プロローグ



 その花に誰も触れることはできない。




 幻の花【サリュウス】



 別名、魔の花。



 美しくも猛毒を秘めた花。





 その昔、地上に災いを起こした魔女が、聖者によって花に姿を変えられた……



 それがサリュウス。






 ……そんな伝説もあった。







 紺青色の花は、まるで月下に煌めく海のような光沢を放つという。



 散り終えたときに、花びらは黒紫に変化し、花の中心に透明な雫を生み出す。



〈魔女の涙〉と……


 そう呼ばれるその雫は、やがて蝋のように固まる。




 それこそが猛毒の結晶。




 だれも触れることのできない涙だ。






 ……ただ一人を除いては。












 ……誰も、




 魔女の涙に触れてはならない。




 ……誰も、




 その涙に触れることはできない。







 そして、その涙の真実を、




 知る者はもう…





 …………いない。













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