第一章:色欲の可憐な乙女と想いを抱く少年

Plorogue

 辺り一面、荒野が広がる世界。『俺』はいつの間にか、この何もない世界に佇んでいた。

 一体何のために、いつからここにいたのかすら、わからない。

 多分、夢であろうことはわかっていた。この世界に漂う非現実的な『何か』の感覚はまさに夢のそれだろう。

 ただ、それにしては自分の感覚が現実と大差なく研ぎ澄まされ、つねると痛みすら感じる。


「一体何が起きているんだ……」


 この夢とも現実ともつかない世界で、坂口京馬は岩壁に隠れながら、空で繰り広げられる白い閃光と黒い閃光の衝突を眺めていた。

 白い閃光と黒い閃光はお互いが衝突する度、その衝撃が大気を揺るがし、お互いが撃ちだした矢のような──否、もはや光線といってもいい射出物は外れて地面に衝突すると巨大なクレーターを穿った。


 この光景は、正に『世界の終焉アポカリプス』を賭けた頂上決戦。

 京馬は確認ついでにもう一度、自分の頬を強くつねった。


「痛つつ……! っいいや、これは夢に違いない! 俺は認めないぞ! こんな世界に勝手にほっぽりだされて、こんな戦いに巻き込まれて死ぬのはごめんだ!」


 京馬は白い閃光と黒い閃光の衝突を尻目に駆け出し、何もない荒野を駆けだした。


「ここからじゃ何も見えないけど、きっとあの地平線上にはまだ何かがあるに違いない! もし、何もなかったとしても、このまま死ぬのを待つよりはマシだ!」


 京馬はひたすら駆け続けた。しかし、一向に何も見える気配すらない。

 ガギッ、と『何か』が打たれ、吹き飛ばされた衝撃音が聞こえた。

 ふと、京馬は後ろを振り返る。

 すると、黒い閃光に吹き飛ばされた白い閃光がこちらに向かってくるのが見えた。


「やばい! ぶつかる!」


 目の前に徐々に迫りくる極光とした白に、恐怖で顔を歪ませ、京馬はその対角線上に全速力で駆け続けた。

 そして、白い閃光が地上に落ちる手前、ジャンプをして倒れ伏せる。


「うぅ……なんとか巻き添えくらずに済んだな……」


 体を起こし、振り返ると、指標がないのでわからないが、半径でも一キロメートルはあろう巨大なクレーターが出来上がっていた。

 実際、京馬へ向かってきた白い閃光は、京馬との間で大分距離が離れていたことが、このクレーターに京馬が巻き込まれていないことからわかる。


「すごいな……ん? あれは……天使?」


 クレーターの中心にいる何かを京馬は確認する。

 あの物体─―否、人物は白い衣を着ていて、幾重にも広がる白い翼を背中から生やしていた。

 そう、これは世間一般でいう天使のイメージと重なった。

 しかし、天使の顔は距離が遠いのと、翼で遮られているせいで全く見えない。

 途端に京馬は自分の眼前に降り注ぐ何かを確認し、それを掴んだ。


「これは……羽?」


 それは白く眩く羽だった。その眩きは京馬が人生で見たどんな物質より美しく見えた。

 だが突如、羽に見惚れていた京馬は青白い閃光に包まれる。


「う、うぁ、なんだこれ……何かが頭に入ってくる……? うあああ、ああああああああっ!!」


 京馬の脳に、否、その『精神』の中に、浸食する様に、様々な『情報』が入り込む。

 しかし、それらは到底、『人間』の知識では捉える事が出来ないと推測される程の難解であり、不可解であり、不可思議であった。

 混乱と恐怖の中、閃光に包まれ、京馬の体は霧散してゆく。

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