第10章 ここが私たちのステージ (6) 私たちが過ごす時間 までを読んでのレビューです
レビューを読むような方はある程度のネタバレも覚悟しているはず、という前置きをした上で
非常に面白いです。
秋田のテーマパークを舞台にした少女達の青春物語、まさに作品紹介の通りなのですが、まずなんといってもテーマパークの描写の精密さが物凄い。
(物理的、体制的な)テーマパークの構造とそこに潜む問題点、社内教育から勤務形態、果ては部内で採用しているタイムレコーダーのアレコレにまで言及する徹底ぶり。
少しばかりの取材と研究、というレベルではおよそ到達不可能だろうと思われる圧倒的なリアリティは、見事という他ありません。のみならずテーマパーク以外の物事にもリアリティの追及を怠らず、さながら本当に9人の少女とパークのキャストが実在するかのような錯覚を覚えます。まずこのリアリティを体験できるだけでも読む価値は十二分にあるでしょう。
しかしこの作品は、リアリティを突き詰めた四角四面なだけのものではありません。
この作品にはリアリティ以外にも大きな魅力が、二つあります。
このふたつは、なんと言えばいいのか。ある種「少年漫画」と「少女漫画」の魅力、とでも言えばいいのでしょうか。あるいは「外界的変化」と「内面的変化」/「フロンティアストーリー」と「シンデレラストーリー」etc……上手い言葉が見つかりませんが。
物語の中で、少女たちは周囲に支えられながら様々な内面的葛藤を乗り越え、パークの花形(アイドル)とも言うべきパーク・アンバサダーとして花開こうとしています。彼女らは個性はあるものの、普通の女の子です。
これだけ書くとドラマチックで美しいですが、同時に受け身さも垣間見える……ように見えるかもしれません。正にシンデレラの物語です。
しかし、そこでもう一つの描写が効果的に働きます。
物語の中で、パークのキャスト達はパークのことを真剣に考え、より良くしようとしています。それは志や気持ちといった内面的向上だけで終わらず、実際にステージの状態改善や各種施設の改良と言った目に見える成果に現れます。言わばテーマパークの「(再)開拓物語」でもあるのです。
面白いのは、これらの開拓には主人公である少女たちも少なからず関わっているということです(施設改善は本来的には少女達の業務内容にはない)。
具体的にどう関わっていくのかはお楽しみとしますが、テーマパークと少女達の成長、そしてキャストの奮戦。これらが生み出す相互作用を非常に上手く描けているのがこの作品の大きな魅力だと感じます。
またタグには百合とありますが、これについては百合が苦手な方にもお勧めできる程度に控えめだと言っておきます。逆に百合を強く欲している方には物足りない……かも知れませんが、キャラクター自体に魅力があるので、想像でお好みに、ってな感じです。
出来ればレビューなど読まずにズバッと作品を読んで欲しいと思っていますが、面白い作品をお書きになっている作者への僅かばかりのお礼として置きます。
広森さんの怪しい笑みの正体も含め、これからも楽しみにしております。