32 自白
土井の部屋に着き、部屋のドアをノックした。
「土井さん、鵜飼です。遅くなりました」
しかし、返事は返ってこない。
「みなさんも一緒です。出てきてください」
「土井さん」
「土井さ~ん」
他のみんなも呼びかけるが同じだった。
「まさか......」
長谷川と同じ状況に俺達は不安に駆られた。鵜飼がドアノブに手をかける。
ガチャ。
「ッ!」
土井の部屋も長谷川と同様に鍵が開いていた。俺達はすぐにドアを開けた。
「土井さん!」
中に入るが、土井が床に倒れていることはなかった。部屋は俺達の部屋とあまり変わりなく、違いは本棚やロッカーと少しの家具がここにあるぐらいだった。
部屋を見渡し、土井が書き物机に向かって腰かけている後ろ姿が見えた。
「土井さん」
長谷川と違い、土井が生きていたことに俺は安堵した。他のみんなも同様で、ホッと息をつくのが聞こえた。
「何よ、起きてるんじゃない」
黒峰が文句を言う。土井は振り向きもせず、机に向かったままだった。
また、絵でも描いてるのだろうか?
集中しているで俺達のノックや声が聞こえなかったのだろう。俺は近付いて土井の肩を叩いた。
「土井さん、迎えに来ましたよ」
だが、それでも土井は反応しない。しかも絵を描いてもいなかった。
「土井さん? 土井さ--」
俺はそこでようやく気付いた。
土井の頭は項垂れ瞳を閉じて寝ているように見えたが、呼吸による胸の上下運動が見られなかった。
土井は死んでいた。
「土井さん......」
俺の様子に異変を感じた鵜飼が駆けつけた。土井の身体を調べ、すぐに頭を横に振った。
土井も犯人に殺された。だが長谷川と違い、撲殺された様子はない。外傷は見られず、火村のように毒による死亡だろうか。
そう考えていると机に一枚の紙と、小さな瓶が目に入った。紙の右側にはペンが置かれ、昨日土井が貸してくれたものだった。鵜飼もそれらに気付き、手に取った。
「鵜飼さん、それは何ですか?」
しばらく紙に目をやり、目を大きく開いて驚いた。
「これは......」
「鵜飼さん?」
もう一度鵜飼に尋ねたが、彼は何も言わず俺に紙を渡してきた。受け取って読むと、こう書かれていた。
【こんな形で申し訳ありませんが、みなさんに謝罪と真実をここに書かせていただきます。この館で起きた殺人の数々は私によるものです。私が水澤、火村さん、長谷川さんを殺しました。詳細については封筒の中身をご覧ください。
自らの死で謝罪の意を表したいと思います。
みなさま、大変御迷惑を御掛けしました。】
「え?」
それはここで起きた連続殺人の犯人は自分だという土井の自供だった。
「そんな、土井さんが......」
「彼が犯人だったのね......」
黒峰達にも内容を伝えると驚いていた。
土井さんが、犯人?
俺はいまだに信じられなかった。あんなに優しい絵を描ける土井が三人もの命を絶っていたなんて。
「この瓶の中身はトリカブトのようです。封筒の中の手紙にもそう書かれています。土井さんはこれを飲んだようですね」
手紙の内容を簡単に説明すると、水澤に採用されてから頻繁にいじめのような扱いを受け、そこから殺意が芽生えたという。
火村については、食堂で彼のお酒に付き合わされていたが、彼の性格が水澤に似ていたという。そこから嫌悪感のようなものが沸々と沸き上がり、気付いたらお酒にトリカブトを入れて殺していたという。トリカブトは水澤の持ち物で利用したそうだ。
長谷川については、火村殺しの疑いを持たれ部屋に呼び出されたという。まずいと思い、一度展示室に行き凶器を持ち出し部屋に向かった。長谷川は出迎え、振り向いた瞬間に殴ったという。脅迫されたことで手をかけてしまったというような内容が書かれていた。
そして目的でなかった火村さん、長谷川さんと殺してしまったという自責の念にかられ、自ら命を絶つことにしたという。
「土井さん......」
「な、何だよ。犯人見つかったんじゃん。何でそんなに落ち込んでんだよ?」
織斑の言う通り、犯人の自殺によりこの館で起きた事件に幕は降りた。だが俺は素直に喜べず、悔しさや悲しさが頭の中を駆け巡っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます