13 サプライズ
食堂に向かい、これまた豪華な食事にありつくことができた。みんな満足し、食後のコーヒーを飲んでいると土井が言ってきた。
「みなさま、これより休憩室で映像を流したいと思います。移動をお願いします」
「やっとか」
「待ちくたびれましたよ」
「退屈で死にそうだったわ」
各々待ってましたという台詞を吐きながら椅子から立ち上がり移動を開始した。しかし、みんながドアに向かう中織斑だけが動かず座ったままだった。顔を見るとひどく青い顔をしていた。その様子に土井が心配そうに声をかけた。
「織斑さん、どうされましたか?」
「あっ、いえ、何でもありません」
「どこか具合でも悪いのですか?」
「ええ、ちょっと頭が痛いですけど、大したことないです」
「お薬をお持ちいたしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。本当に大したことないですから、たぶんすぐ治まります」
「そうですか。もし酷くなるようでしたら申し出てください。お薬をお渡しします」
「ありがとうございます」
そう言うと織斑は移動でしたね、と確認してから休憩室に向かった。土井に声をかけられてからはそうでもなかったが、その前までの彼の顔色は頭痛に苦しんでいるような表情ではなかった。あれは、何かに怯えているように見えた。
怖じ気づいたか?
そんなことを思ったがすぐにどうでもよくなり、俺も休憩室に向かった。
休憩室に着くと暖炉に火が入れられており、暖かい空気が身体を包み込んだ。暑すぎず寒すぎず、程よい温度が部屋に充満していた。
暖炉一つでここまで暖かくなることに、俺は充足感と羨望感を持った。
しみじみ思って暖炉を見ていると違和感があった。それはプレゼント箱のようなリボンが結ばれた白い箱が上に置かれていたことだ。先程着替えの際、近付いて中を覗いたりしたときにはそんなものはなかった。
何だあれ? と疑問に思ったのも束の間、後ろから来た土井に声をかけられ、慌てて俺もみんなと同じように椅子に座った。
暖炉の右、南側の壁の前に大きなスクリーンが垂れ下がっていた。どうやらそこに映像を写して見るようだ。
「それでは、これよりイベントの映像を流したいと思います。みなさまお見逃し無きよう」
そう言って土井はプロジェクターを操作して映像を流した。休憩室が暗くなり、『惨劇の館』という血のエフェクトがかかったタイトルが最初に出てきて、ちょっとしたショートストーリーだった。
【一人の男が山で道に迷い、辺りは暗くなり始め、どうしようかと悩んでいると遠くに光を発見した。それは館の明かりで、男は館を目指し歩きだした。
館に着きドアを叩くと一人のメイドの女が現れ、事情を説明して中に入れてもらった。そこはある一家が住んでいる館で、メイドを合わせて六人で暮らしていた。事情を聞いた一家は男を可哀想に思い、一泊していきなさいと言った。男は一家に感謝し、その言葉に甘えることにした。ちょうど夕飯にするところで、男は一家と共に食事をした。とても豪華な食事と空腹も重なり、男は豪快に食べていたが、一家はその食べっぷりに気を悪くするどころか笑い、称賛していた。
綺麗に平らげ、次はお風呂をもらうことになった。これまた広く綺麗な風呂に男はゆっくり浸かり、すべての疲労を洗い流していた。
一室を用意してもらい、フカフカのベッドで横になる。もうここに住みたいなと考えている内に男は眠りにつき、同時に映像もブラックアウトした。
ブラックアウトから溶けるとカメラの視点はある部屋を映していた。椅子とテーブルがあり、暖炉もある。まるでこの休憩室のようだ。すると一家の主人が恐怖で顔を歪めながら必死に何かから逃げている。暖炉に向かって後ずさりながら逃げる主にある人物が登場した。後ろ姿で分からないが黒いフードを被り、まるで魔術師さながらの格好だった。その魔術師が主を追いかけ、目の前にたつと右手を上げた。その手には銀色に輝くナイフが握られ、次の瞬間主に向かって降り下ろされた。胸を刺された主は血を吹きながら口をパクパクさせていたがすぐに動かなくなった。主は殺されたのだ。その後魔術師は振り向き、その顔を晒した。主の血で濡れた仮面の顔を。白く笑った仮面に返り血による赤が加わり、より不気味な雰囲気を醸し出している。
屈みこむと仮面は主の首を切り落とし、暖炉の上に置いた。そして暖炉に主の血で次のように文字を書いた。
『これは始まりに過ぎない』 】
そこで映像は終わり、休憩室に明かりが灯された。
「いや、なかなか見応えのある映像でしたね」
「ですね。私なんか最後の犯人が振り向いたシーンには少しビビってしまいました」
「私も」
俺もビクッと体を震わしたが暗かったおかげでばれなかったようだ。ホラーものは苦手ではないが、免疫があるわけでもなく普通にビビってしまった。
心臓に悪い......。
未だにドキドキしているのでなんとか抑えようとする。
「それでは、今からみなさまに課題の書かれた紙をお渡しします。期限は零時までです。中身の確認は各自部屋に戻ってからお願いします」
そう言うと土井は順に紙を配り始めた。
どうか簡単な問題でありますように、と祈りながら土井から紙を受けとる。
「しかし、この映像の意味するところは間違いなく」
「あの仮面が誰かを突き止めること」
「だよね~」
各々が紙を受け取りながら話始め、間宮が土井に尋ねた。
「土井さん、イベントの問題提示はこれだけですか?」
「はい、そのように承っております」
「何かヒントは?」
「それは申せません」
「ですよね」
間宮の質問に耳を傾けていたが、やはり土井は答えることはなかった。
「じゃああれは何なの、土井さん?」
長谷川が暖炉の上のプレゼント箱を指差して聞いてきた。俺も同じことを気になっていた。
「おや、あれは誰かの持ち物ではないのですか?」
しかし土井も分からないらしく、逆に俺達に聞いてきた。
「知らないわよ」
「俺も」
「私も」
「同じく」
全員否定していた。その後間宮が土井に聞いた。
「土井さんが用意したんじゃないんですか?」
「いえ、私もあのようなものは手にしていません」
「違うんですか? 僕はてっきりイベントの一つかなんかだと思っていましたよ」
「ですが私も何も知りません」
これもイベントの内容の一つかとも思えたが、土井も本当に何も知らない様子だ。
「じゃあ何だあれ?」
誰に聞いたわけでもなく、アゴが質問する。
「もしかしたらあれじゃない?」
「あれって何だよ」
「ヒントよ、ヒント」
長谷川が答えた。たしかにその可能性は高そうだ。プレゼント箱なんだから何かしらの良いものが入っているはず。この状況ならイベントに使える何か。
「それならさっさと開けようぜ」
アゴが急き立てるが、土井が渋る。
「ですが、私はこれについては何も指示されていませんが」
「構わねぇだろ。あるんだから開けるべきだろ」
「そうそう。開けましょうよ」
長谷川もウキウキして促す。他の物も止める者はおらず、俺も中身が気になった。
何かヒントが出てきてくれと願っていると、横にレイが現れた。
「何だレイ、お前も気になるのか」
みんなに悟られないよう小声で話しかける。しかし、レイは深刻な表情をしている。
「どうした?」
するとレイは首を激しく横に振り始めた。あの箱を指差しながら、止めろと言うように。
「何だよ、横取りしてこいってか?」
お前も欲深いなと思っていたら土井が悲鳴をあげた。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
驚いて床に投げ捨て、箱からごろりとあるものが出てきた。
「なっ!」
「うわぁぁ!」
「きゃああああ!」
箱から出てきたそれはしばらく転がっていたが、やがて回りが止まり、ちょうど前面が俺と向き合う形で止まった。
国によって色は異なったり大きさも様々だ。第一印象の一つとされたり、感情を表現する上で重要な役割を果たす部分だ。しかし、それはもう不可能で、永遠に変わりない一つだけの、死の表現しかできない。
それは人間の頭部だった。
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