[17]ベギンハイト家次期当主
「――以上が現時点での怨人襲来に関連する最新報告となります」
ロゼス王国内において最も
男は昨晩の怨人襲撃に
周りには王国軍の
そんな折に扉がノックされ、男が許可すると新たに1人の執事が入ってくる。
「ガルフ様。ただいま教会より、このような
書簡を受け取るとそこには最重要であることを示す印が黒色で押されていた。
「教会からだと? まったく、この忙しい時に……全員一度退出を。内容を確認する」
その男――ガルフ・ベギンハイトの指示により、使用人を含め全てのものが部屋から出て行くのを確認し、ガルフは
送り主はラザネラ教ベギンハイト支部教会のミラティク司祭からだ。
その文面全てに目を通し、ガルフは大きくため息をこぼす。
同時にその書簡は一瞬にして燃え上がり、
ガルフはこの都市を治めるベギンハイト家の貴族だ。領主である父の長子であり、継承順位でいえば第一位だ。すでに後継者として指名を受けており、そのことは何年も前に内外に示している。故に、未来の領主だと思っている者は多い。
そんな次期領主は、
特に怨人の襲来は法則性が
ここ数十年のベギンハイトは小規模な襲来が散発的に発生しているが、これは過去の統計からしてみても平均的といえる規模だ。
だが問題は回数ではない。
怨人は個体差が非常に大きい。並の兵士でも一対一で倒せる
幸いなことに近年の襲来は小さく弱い個体が多かった。少なくとも、ガルフが生まれてからの36年間はそうだ。
しかし昨晩襲来した怨人は大型に近い中型で、かつ飛行型。ガルフが見てきた怨人の中では最も強力な個体だ。
王国最強と名高い父、領主グラファン・ベギンハイトの不在時に襲来が発生したのは不幸であったが、被害を最小限で留められたのは幸運だった。
だが手放しで喜ぶことはできない。
被害が出たのは
バラギア・ベギンハイトは、戦闘力だけで言えばベギンハイト家の歴史上もっとも才覚を持っていると言って過言ではない。弱冠32歳にして英傑の域に到達できる者など、王国内――いや、隣国を見ても極めて
問題は、バラギアの
度の過ぎた
ただ単に「戦闘力の高い異常性癖者」というだけであれば、ガルフとしても対処は
だが奴は、
奴は独自の人脈を持っている。ベギンハイト家、特に当主グラファン・ベギンハイトを
15年前、ロゼス王国に巣くっていた反社会組織の多くが
だがその実、奴が王国内の裏社会を
そうやって今や王国内において裏社会を事実上の支配下に置いている。
王国軍としてもその存在に危機感を覚える者は少なくない。
正当な家柄と抜きん出た戦闘力、そして権力者の後押し、さらに怨人討伐の実績をそろえたことで士官候補生として王国軍に入って以後異例の昇進を果たし、今や准将の地位にいる。
さらに昨晩の功績で少将に昇進させる動きが、支援している貴族たちの間で起こるだろう。
そして現在、建前上は王国軍所属ではあるが、その指揮系統は独立していると言って
そのうえ今やその特殊部隊は、城塞都市の切り札とまで呼ばれる程の
ガルフがまだ10代後半の頃。4歳年下のバラギアの異常性に気付いた時には既に魔の手を多方面へ伸ばしていた。
奴が動き始めたのは10歳にも満たない頃だろう。
生まれながらの異常者――ガルフはそう感じずにはいられなかった。
そのうえ自身が異常であることを自覚したうえで改善する気はなく、己の欲望を満たすために時には取り繕うことを平然とやってのけ、優れた嗅覚は世渡りにおいて真価を発揮する。
――これ以上、奴の好きにさせるわけにはいかない。
そうガルフは感じていたが、行動を起こし始めたのはバラギアより5年以上も遅く、その差は
今はまだ実力も権力も、父であるグラファン・ベギンハイトを超えていないからこそ水面下で動いている。だがすでに純粋な戦闘力では
ガルフは筆をとると、
いくつかの書簡を書き部屋を出ると、兵士と使用人が待機していた。
「大至急これを王都にいる父上へ」
「畏まりました」
書簡を渡された老年の執事は、老いを感じさせない所作で身を翻し駆けていった。
「これより教会へ向かう。迎えは正面か?」
使用人は腰を低くしながら肯定する。そしてガルフは護衛と共に迎えの馬車に乗り込んだ。
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