[4]生存率を少しでも上げるためには
『リッチェ!! 術式処理の交代を!! テサロはすぐに治療を――』
襲来する怨人を片手間で避けながら、テサロは首をゆっくりと横に振り拒否する。
「すでに手に負えないほど、この体はオドに
『まさか……』
何かを察したミグは、直後、なぜ気付かなかったのかと自分を責めるような声を漏らし、それでもなおテサロに対し声を上げる。
『テサロ、その術式は必要ない! そんなもの、いつの間に――』
「今は、それどころではありませんよ」
『いいや、早く
「私の代わりは、リッチェがいますので」
『だとしても必要ない! 至誠は相変わらずオドを受けていないし、リッチェの
数秒の
『テサロ!
再度ミグが
直後、周囲で可視化しているオドがやや濃くなったことに至誠も気がついた。
――なるほど、オドによる悪影響を
至誠にもオドがテサロの身を
「さぁリッチェ、もう時間がありません。はやく――」
『ダメだ! ここで
「陛下より
『その
「いいえ。私は足手まといです。そしてリッチェの実力では全員を連れて帰ることは難しいのです。最低でも1人は減らさなくてはなりません。ならば、すでに
誰か1人は降りなくてはならない――それはミグも分かっているのか、反論の言葉を
リッチェは何かを言わんとしているが、引きとめられる言葉が出てこない様子で、
「それはなりません!!!」
代わりに大声を上げたのは、ヴァルルーツだった。
ヴァルルーツはこの場において無力だったが、
その
そして今、目の前で
「誰かが降りるべきなら、私が降りるべきです!!! 足手間というのならば、私こそがその
ヴァルルーツがリネーシャたちに
――そんな
「いけませんよ王子。
優しく諭す様に告げるテサロだが、ヴァルルーツはその言葉を
「それは違います! 我がヴァルシウル王国に皆様を迎え入れた以上、あなた方が
そこに反論の余地はない。アーティファクトの調査のためとはいえ、間違いなくヴァルシウル王国に
故にテサロも論点を変える。
「それでも王子はまだ
「未熟な自分など、それこそ身代わりとなることくらいしかできますまい!」
「
何を言ってもその意思に変わりはない――そう訴えるように語るテサロの言葉を、今後はミグが
『まだ間に合う。今
「自分の体のことは、自分が一番よく分かっています」
いまだ
『いいや分かってないね!
それでもまだ今なら助けられるとミグは確信していた。
「しかし
至誠を連れて帰る可能性を上げるなら
ミグの立場に求められるのは、最悪、他の全員を切り捨てでも至誠を無事に連れて帰ることだ。
そんなことは何より
だからこそ、ミグは言葉を詰まらせる。
「ミグ。皇国に私の代わりはいても、至誠様と至誠様の持つ知識は
テサロの言葉は
それをしないのは、リッチェが「ならば自分が身代わりになる」と言い出しかねない
テサロは、特に
『……ダメだ。
それでもなお、引かないミグに、テサロは語りかける。
「私が生にしがみつくことは、それだけ危険を抱えることに他なりません。親のわがままで、
これまでのテサロの言葉は本心ではない。
しかし今の言葉は本心だと、ミグは理解できた。
ミグは、リッチェのことは生まれたときから知っていた。
妹や
そしてなにより、リッチェが生まれる前のテサロの
『分かるよ。子はいつか親を超えていくものだ。そうあるべきだ。でも、だからこそ
ミグに親しい者を切り捨てる判断が難しいことを、テサロもまた知っていた。故に、それまで平静だったテサロが声を
「あなたには分かるはずですッ!! 親よりも先に子が死ぬなどあってはならない!! 手遅れになってからでは遅いんです!!!」
『だから手遅れになる前に君を治療するんだ!!!』
リッチェは止めたかった。口論も、テサロの行動も。しかしその言い交わす言葉に割って入ることができず、考えのまとまらない感情が頭に止めどなく
今回のアーティファクト調査に同行したのは、リッチェのわがままからだ。
学校では勉学、
だから自分は優秀なのだと思っていた。自分は
だからミグに頼み込んで、今回の調査に半ば無理やり
だが結果はどうだ。
至誠が
もしも自分が同行せず、もっと優秀な人員が代わりに入っていれば、母が自己犠牲になる覚悟をする必要はなかったのではないだろうか。不浄の地に飛ばされるなどという事態に追い込まれることもなかったのではないだろうか。蘇生がもっと早く完了し、
いつだって優しく、時には背中を押して、何より幸せを願ってくれる母が、今回の
その時に自分の
だがその反対は「親に反対された程度のことで
だが結果は、目の前で母が自らを
リッチェは、感情を
脳裏は混乱を
その様子に、テサロとミグの言葉が
「これからあなたは皆を
「――でっ……でも――」
テサロの手は不浄の地のように白く色彩が失われ、すでに冷たくなりつつあり、リッチェの顔に触れた瞬間、リッチェは感情が決壊したかのように泣きじゃくる。
ミグは、何とか説得しなければ――そう焦りを募らせていると、口元を手で覆い隠した至誠が小声で話しかけてきた。
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