第238話

「ごめんね。宮沢さんのだいじな人だったんだね」


 私にしゃべりかける天野くんは、とてもそっちの世界の人間とは思えないほどさわやかで、いつもどおりにおだやかだった。


 そんな天野くんが倒れる矢野の横をとおりすぎようとした。


「待て……」


 矢野は息を乱しながらも声をしぼりだす。横をとおりすぎようとする天野くんの足を、両の手でつかんだ。


「はあ」


 天野くんはあきれたみたいにため息をついた。


 そして。


 とくに感情的になるわけでもなさそうに、自由なほうの足をあげる。


 踏み抜いた。


 そのまま矢野の顔面を蹴飛ばした。


 ぐしゃっとなにかがつぶれる音がエレベーターホールに響いた。


 だが。


 それで終わりなんかじゃなかった。


 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……


 天野くんは矢野の顔を蹴り続けた。

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