第237話
「そいつを早く連れていきましょう」
しんとしずまり返ったエレベーターホールに天野くんのさわやかな声が響いた。しゃべりかたには抑揚がなくひどく落ちつき払っている。
「おれの手で直接やりたいから」
やりたい――
この漢字は、間違いなく「殺」のほうだ。
つまり天野くんは丹波を事務所にでも連れていって、そこで証拠が残らないように殺そうとしているのだ。
殺し自体をもみ消して自分が安全でいられる方法を知っているようだった。
私は中腰の状態から、ストレッチャーをささえにしてよろよろと立ちあがる。
直立した。
こちらにむかって歩いている天野くんを見ながら数歩まえにでる。ストレッチャーの丹波の顔のほうに近づく。
黒スーツのおとなは天野くんのために道をあけた。ストレッチャーから離れる。
「宮沢さん」
ふだんの学校での態度と変わらないおだやかなテンションで天野くんは話しかける。
もうばれてしまったのだということを、まったく気にしていない。隠すつもりも、ごまかすつもりもないようだ。
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