第223話

「はあ?」


 どこからか声がきこえた。


「なんだこいつ」


「なにをやっているんだ」


 その場にいるちんぴらが思いおもいの言葉を吐く。まとまりなく、好き勝手しゃべっているといった感じだ。


「ねえ、どうします?」


 そのうちのひとりが、うしろの黒スーツの連中にむかっていう。指示をあおいでいるようだ。


 最前列には最初の車からでてきたがたいのいい男がいる。その男が私にむかってあごをしゃくった。


「了解」


 ちんぴらはそういうと私のほうをふたたび見る。


 一歩を進んだ。さらに近づいてくる。


 その動きにあわせて、ほかのちんぴらも私にさらに近づいてくる。


 もう目のまえだ。


 いつかのように無数の手が私に伸びる。おおきく広げた両腕をつかまれ、左右から引っ張られる。


「やめて……」


 私はぐっと足に力をいれて踏んばった。


「やめてください」


 かすれた声でそう叫ぶ。


 だが、やめない。


 十数人のちんぴらたちと平均身長にも満たない女の私じゃ力の差がありすぎる。


 抵抗などしたところで、なにもしないのとほとんど変わらない。ずるずると引っ張られていく。


 靴のかかとがアスファルトにこすれて、まえに動いていく。それでも足に力をいれた。

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