第218話

「丹波くんは、今夜はもう起きないと思う」


 どうやら丹波は私が思った以上に身体がぼろぼろになっているらしく、先ほどの鎮痛剤や麻酔では効き目が弱く発熱や打撲による痛みで起きてしまうことがあるようだった。


 だから今また強力なものを追加したのだという。


 丹波の状態はさすが絶対安静だけあって治療以前のそんな段階らしい。目を覚ましたり動いたりするということは、即悪化、即死亡にすらつながるのだそうだ。


 だから意識がいったん回復したのを確認したのち、強力な鎮痛剤と麻酔をつかい身体を強制的に休ませるという方法をとったのだという。


 初めからの治療方針。予定どおりの行為だそうだ。そのおかげで丹波はゆっくり眠って回復を待つことができるようになるが、その代わりしばらくは目を覚ますことすら不可能になってしまうという。


「だから」


 医者の先生はいう。


「今夜はもう帰りなさい。このあとのことはわれわれにまかせてくれればいいから」


 病院側としてはとうぜんの意見だ。しかし、私はそれをきく気にはなれなかった。


「はい」


 つくった笑顔で返事をすると、病室をでた。


 エレベーターホールからエレベーターにのって一階にいった。そして帰る振りをして一階にある共用のトイレに身を隠した。


 警察に丹波が命を狙われているということをつたえようとも考えたが、証拠がない今の状態では絶対に動いてなんかもらえない。


 そしてたとえ信じてもらったとしても、けっきょくしたっぱの人間がつかまるだけで、きっと丹波は今後もまたべつの関係者に命を狙われる。


 それならば私自身が迎え撃たなければならない。ポケットのなかでお守り代わりのヴィクトリノックスをにぎりしめた。


 約束したんだ。


 丹波は私が守るって。

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