第208話

 インパクトの瞬間、まず丹波の身体がぐらついた。頭ががくっとしたにさがる。


 そのうえを矢野の巨大な拳が風の速さで通過する。ぴたりと正確に丹波の顔があった場所だ。


 しかし、そこにはもう丹波の顔はなかった。


 矢野の拳は目標をうしなった。


 のっていた体重のまま矢野の身体がつんのめる。その胸に丹波が顔をうずめるかたちで倒れこむ。


 一瞬、なにが起きたのかわからなかった。


 それはケンカをしていた矢野本人もおなじだったのだろう。


 なにか攻撃をしかけられたのかと思ったようで、すぐにバックステップで距離をとった。一歩うしろにさがった。


 しかし。


 丹波は次の攻撃などしかけていない。ただ倒れただけだ。


 その証拠に、重力のまま丹波の身体は正面から舗装されたアスファルトに落ちていった。


 ずしんと音がした。


 身体がちいさくバウンドする。


「丹波ああああああっ」


 誰かが叫んだ。


 それは私の声だった。

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