第184話

「それから、これはきいた話しなんだけど」


 そこで声をぐっとひそめる。


「あいつ、どうやら誰かに狙われて、この街に逃げてきたみたいだ」


 その単語にどきっとした。


 誰かに狙われている――


 それは丹波がこっそり教えてくれたふたりだけの秘密だった。


 それなのに、この男はそのことを知っている。思わず私は足をとめてしまった。ついでに振りむき、ヤンキーの顔を見てしまう。


「あ? てめー、なに見てんだよ」


 集団のなかのヤンキーのひとりと目があってすごまれた。


「すみません」


 あわてて目をそらして、したをむいた。


「やっちまうぞ」


 今度の漢字は「犯っちまう」だろう。ふざけたせりふがうしろできこえる。私は早足でバイクのまえを去る。


「それで、あいつ……」


 ヤンキーたちは存在感をなくした私を無視して会話を続ける。

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