第176話

 丹波はそのチェーンを軽くまたいでこえた。非常階段をのぼっていく。


 わけがわからないが私も続いた。


 かんかんかんと音を立てながら、うえへうえへとあがっていく。


 狭い階段はふたりが横にはならべない。前後にならんで丹波と私はあがっていく。


 四階ぶんはあがっただろうか。


 運動不足の私は、三階あたりですぐに足がぱんぱんになった。


「ごめんね。ここ、エレベーターがつかえないからさ」


 そういってあやまりながら丹波は先行する。


「で、どこにいくの」


 私はしたから声を張る。


「もうちょっと」


 丹波ははぐらかして、教えてくれない。


 そこからさらにツーフロアぶん階段をのぼった。


 視線の先にようやく階段の終わりが見えた。


 屋上のようだ。残りはあと数段。


 先にたどりついていた丹波は振りむいて、私に手を伸ばした。


「目、つぶって」


 そういって手首をつかむ。


 とっさのことで私は、いわれたとおりにするしかできない。


「あと三段……二段……一段……」


 残りの段数を教えて指示してくれる。


「……オッケー。もう階段はないよ」


 丹波がいうのでそっと目をあけようとした。

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