第177話

「まだ、だめ」


 そういわれたので、あわててぎゅっと目をきつくつぶった。目以外の感覚に集中する。


 とてもしずかだ。風が気持ちいい。


 雨あがりのにおいがする。


 そして手首が温かい。


 私は丹波に手首をつかまれ、引かれながらゆっくりと数歩歩く。自由なほうの手に持った傘を杖の代わりにした。


「はい。ストップ」


 その声とともに丹波の足がとまったようだ。私も足をとめる。丹波はまだ私の手首をにぎっている。


「みっつかぞえたら、目あけていいよ」


 そういって丹波はカウントダウンを開始する。


「3……2……1……」


 雨あがりの澄んだ空気のなか、その声がよく響いた。

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