第140話
なんなの、もう……
私は視線を落とした。
手もとににぎらされた短いアーミーナイフを見た。血液のような赤い柄に救急車を連想させる十字のロゴマークが浮いている。そしてその先の七センチブレードはステンレス製の銀色で、廊下の白さと泣き腫らした私のひどい顔をうつしていた。
つばをのむ。
鼻水もいっしょにはいって、ちょっとしょっぱい。
顔を手もとに落としたまま、視線だけをうえにあげる。丹波の顔をまっすぐ見る。
覚悟を決めたような真剣でどこかさびしげな表情がまっすぐに私のことを見つめていた。
丹波のいった「刺していい」というせりふは本当に嘘じゃないようだ。
そしてこの表情はいっしょに帰ったあの帰り道で、私を守ってやるといったときのものともおなじだった。
ぶるっと震えた。
わけがわからない。
なお悔しさだけがこみあげてくる。
私は持ちづらいほどに短い柄をにぎりしめた。
手のひらにぎゅっと力をいれる。
刃(やいば)にうつる蛍光灯の明かりがくるりと角度を変えて光る。
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