第137話

「関係ないといって矢野たちから逃げた。やればできるはずのことをやらなかった。それは私のことなんてどうでもいいからでしょ。本当に関係ないって思っているから、たすけるためにケンカだってしてくれなかったんでしょ」


 自分でもなにをいっているのかわからないほどたくさんの言葉をならべた。なんでこんなことで感情がたかぶってしまっているのかわからなくて、さらに腹が立った。


「私はあなたを信じられない。勝手なこといわないで」


 そういって言葉をしめた。丹波は口をつぐんだ。


「それは」


 ひらきかけて、目をそらした。


 やっぱりだ。


 さんざんそれっぽい言葉をならべていたが、やっぱり全部、中身のない甘いだけのせりふなのだ。その証拠に、丹波は私の質問にはなにひとつ正確にこたえられていない。


「私……」


 このおよんで、一瞬でもそんな言葉でまるめこまれそうになった自分に腹が立った。


「あなたのせいで、矢野にキスされて、本気で襲われた。あとちょっとでとり返しのつかないことにだってなっていた。いいかげんにしてください」


 そのせりふはやはり、静寂の廊下にしずかに響いた。

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