第133話

「関係ないんでしょ、私なんか」


 つい声を荒げてしまう。なんでこんなにむきになっているのか、私自身わからないが感情が抑えられない。


「怒っているよな」


 丹波はそういう。


 だが、たとえ私が怒っていたとしても、そんなことはこの男には関係ないはずだ。


 私が怒ろうが泣こうがへこもうが、さらわれようが、キスされようが、集団に犯されそうになろうが、雨に打たれようが、バイトをクビになろうが、それは私だけの問題だ。友達ですらない転入生には、なにも関係なんてない。


 私はただただいらついた。


「傷つけたこと、間違ったこと、ごめん」


「はあ?」


 わけがわからない。


「なあ」


 丹波はいう。


「しつこいっ」


 私は叫ぶ。そういってふたたび振りむき、丹波の顔をにらみつける。きれいなふた重のなかにあるアンバーの瞳がじっとまっすぐ私を見ている。


 その目がやさしい。それがむかつく。ただの軽い口約束で守るなんていわれたことを本気にしてよろこんだ。さらわれたときだって、もしかしたらなんて甘い期待をした自分がいた。そのことを思いだしてさらに腹が立った。


 入学してすぐのころ、卒業するまでは決して折れないようにと自分自身に誓ったはずなのに、ひとりきりで耐えていこうと決めたはずなのに、たすけてほしいとあのとき願ってしまった自分の甘さがゆるせなかった。


 その結果が、こうしてころっとだまされた。


 そして期待したぶん、悔しい思いをしているのだ。

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