第127話

「あぶない」


 うしろから声がきこえた。


 手首をつかまれた。


 引っ張られる。


 重力のまま階段を転げ落ちようとしている私の身体が、ぐんとうえに引きあげられる。


 すごい力だ。


 私の体勢は直立になり、勢いあまってくるりとまわる。百八十度回転する。逆方向に顔がむく。


「おっと。あぶない」


 階段のうえにむかって転びそうになる私の頭上から声がきこえた。


 私の顔がなにかにぶつかる。鼻の頭をしこたま打った。


「くしゅんっ」


 くしゃみがでた。


 鼻をすすりながら視線をうえにあげる。


「あっ」


 声が出た。


 そこにあったのは、丹波の顔だった。


 私は廊下で丹波に正面から抱きしめられていた。

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