第110話

「うちはほかのアルバイトの子もおなじようにしてきています。これからもそのつもりだし、今までもそうでした。ですから、ここで例外をつくるわけにもいきません」


「わかります」


 そうとしかいえない。


「宮沢さんはまじめだし、仕事もしっかりとできるのでたすかっていたのですが」


 それから一番ききたくないせりふを吐く。


「アルバイトは昨日までで契約終了とさせていただきます」


 ていねいな言葉だが、事務的な内容だ。


 たすかっていたといっていたが、その言葉にも感情などこもっていない。いろいろな装飾語をつけてきらびやかにしてはいるが、平たくいえば単純にクビということだ。


「もう月末になってしまったから、今月前半ぶんの給料と後半ぶんの給料が振込だと二回にわかれてしまいます。それとも次の給料日に直接とりにきてもらえれば全額そのときに払えるようにもできますけど」


 はっきりいって、どちらでもよかった。


「それなら二度にわけて振りこんでください」


 たいして考えずにそういった。


 それから、今までお世話になったお礼をいって、そのままとんぼ帰りをした。


 落ちこんでいるひまはなかったが、こんな状況になってしまっては落ちこまずにはいられなかった。


「あーあ」


 クビになっちゃった。


「新しいバイト探さなきゃな」


 声にだしてつぶやいた言葉は、頭のうえの傘のおもてで楽しそうに歌っている春の雨音にかき消された。

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