第103話
「屋上でろ。けりつけるぞ」
矢野が胸ぐらをつかんだまま丹波を引っ張ろうとする。だが、丹波は動かない。足に力がはいっているのか、そもそも動くつもりがないようだ。
「てめえ」
矢野が低くつぶやいた。ことごとく思いどおりにならない現状によほど頭にきているのだろう。ぴんと緊張の糸が張り詰めた。
瞬間。
なぜか矢野は体制を崩した。巨大な身体がぐらりとかたむく。
理由はすぐにわかった。
丹波が足を払ったのだ。
べつに力をこめたようすはないし、アクションを起こすモーションすらなかった。そもそも目線はどこかうわの空にある。
そんな丹波がどうやって、むかいあう矢野の足を払ったのかは見ていないのでわからない。だが、現実に矢野の身体はななめにかたむき落ちている。
矢野の身体と空気の流れがゆっくり見えた。わずかな風をうみだしながら、矢野の手が丹波の胸ぐらから離れた。
身体がさらにかたむいた。だが、倒れない。ぐっと足を踏ん張った。
おもいきり低い位置まで落ちているが、しっかりと両の足で床を踏みしめている。奥側にある左手で拳をにぎった。
私はびくっとしてしまう。
すぐ近くまで近づいていた不良仲間も足をとめて矢野のうしろでフリーズしていた。教室の前方にできたスペースにいるふたりをただバカみたいに見るだけだ。
矢野が腕を引き切った。
「ぐっ」
矢野ののどから息がもれる。拳の先で突風が巻き起こる。身体を起こす動作にあわせて勢いをつけて殴ろうとする。
風がやんだ。
あくびをしていた丹波の眼光が鋭くなる。視線を瞬間、矢野にむける。顔つきが心なしかぴりっとした。
音が消えた。
チャイムが鳴った。
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