第100話

 チャイムが鳴った。ホームルーム五分まえの予鈴だ。


 教室前方のドアがひらく。


 いつもの登校時間に金髪の少年がはいってくる。


「丹波あああっ」


 怒号が響いた。


 矢野の声だ。


 予想はしていたものの、あまりの剣幕にびくっとした。私も無関心を決めこんでいた二十数名のクラスメートも、いっせいに肩が一瞬ぴくりと跳ねた。


 私はほとんど反射で顔をあげた。


 同時に。


 長さ五十センチほどの特殊警棒がドアにむかって投げられるのが見えた。ぐるぐると縦回転しながら飛んでいく。席について無関心を決めこんでいるみんなの頭上を通過した。


 矢野のしわざだった。目標はもちろん丹波。登校したての金髪の不良のひたいにむかう。まっすぐ飛ぶ。


 もちろん丹波は登校したてだ。体勢なんてととのえられない。なぜか知らないけれども困ったような面持ちでドアをくぐってきただけだ。


 無警戒で不用心。視線どころか身体さえもそっぽをむいている。気がゆるみまくっているのが、ぱっと見ただけでもわかった。


 そこへ。


 黒いコーティングがほどこされたステンレス製の棒がつっこむ。


「てめえっ」


 それを追いかけるように矢野が机のうえを走っていた。


 床ではない。みんなが席についている状態で、その机のうえを駆け抜けるのだ。

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