第99話

 次の日、朝がやってきた。


 昨夜の雨はひと晩たってもやまなかった。


 自宅から自分の傘をさして学校にいく。


 二年三組の教室につくと、私の席は前日に続きおとなしかった。


 本日も体操着の残骸が机のうえに積まれているわけでもなければ、イスの座面にノリが塗りたくられているわけでもない。もちろん、ほかのいやがらせをされているようすもなかった。


 二日連続で、いやがらせのあとがない。こんなことは入学以来だ。


 驚いた。私の席が二日も続けてほかの座席とおなじような顔でたたずんでいて、机もイスもおだやかな表情で私の登校を待っているなんて奇跡に近い。


 なんだかなあ。


 とんでもなくしずかなそのようすは、逆に気持ちが悪いとさえ感じられた。これが狂った私の通常の感覚だ。


 だが、このおとなしさにはべつの理由があった。


 その理由にはすぐに気づいた。その日もやはり教室後方に人だかりができていたからだ。


 矢野を中心にした不良グループは今にも怒りを爆発させそうな勢いで色めきたっている。


 もう悠長なことはいっていられない。


 そんな感じだ。


 昨日、私を拉致監禁した連中が全員いるわけではないが、うちのクラスの不良は全員それぞれが手に獲物を持って待ちかまえている。


 険呑(けんのん)だ。


 なんといっても、険呑だ。

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