第91話

「おまえたち」


 矢野は私をさもにくらしそうに見つめた。そして、思いもよらない言葉を発した。


「帰るぞ」


 しんとした。


 その場にいる全員が言葉の意味がわからなかった。


 男の子たちは私を犯すつもりでいたし、ギャルたちは犯される私を見るつもりでいた。


 それなのに、矢野のせりふはまったく逆のものだった。


「冷めた。丹波がこないなら、こいつを犯しても意味がない。ケータイ電話も壊れた。もう二度とあいつに電話をかけられない」


 どうやら私にとっての最悪の事態だけはさけられたらしい。


 だが、ケータイ電話が壊れたって。


 自動的に壊れたみたいないいかたをしないでほしい。私のケータイが壊れたのは矢野が地面にたたきつけたせいだ。


「おまえら、いくぞ」


 そういって矢野はその場につばを吐くと、屋上をあとにするため扉にむかった。


 私に覆いかぶさっていた男の子たちは、その言葉にしたがい次々に立ちあがる。私になにもしないまま、私の身体から離れていく。ズボンをあげて、矢野に続き屋上への出入口にむかっていく。


「矢野」


 今まで私の足を押さえていたギャルが叫ぶ。


「こいつ、どうするの」


「あ?」


 矢野は足をとめずに、振りむかずにいう。

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