第92話

「そこに捨てておけ。明日の朝には警備員か誰かがくるだろ」


「ぎゃははっ」


 また下品な笑いがした。


「よかったな、おまえ」


 そういって、ひとりが足から手を離した。顔を近づけ、私の左頬にびんたする。


「本当は集団に犯される女っていうのを生で見てみたかったんだけどな」


「そうそう」


 ふたり目も私の足から手を離して立ちあがる。ついでに右頬を平手で殴られた。


「これから雨ふるみたいだから、風邪引かないようにしなよ」


 三人目はそういって立ちあがると、私のおなかを靴の先で蹴飛ばした。


「うっ」


 私は思わずうめいてしまう。首がうなだれ、口からは透明な唾液が糸を引いてたれる。


「きたねーな、ぶす」


 最後に鼻から煙をだしていたギャルが立ちあがる。


「ぺっ」


 そして私の顔にむかってつばを吐いた。それがみごとに鼻の頭と頬のあいだのくぼみに落ちる。


「ぎゃははははっ」


「マジウケルー」


 そういいながら、ギャルは次々私にむかって唾液の雨をふらせてきた。


 さんざんつばを吐きかけたあと、ギャルたちも男の子たちのあとに続いて扉のほうに歩いていった。そのうしろ姿を見るのが悔しくて、私はしたをむいたまま奥歯をかみしめ、ぐっと涙をこらえていた。


 ぎいと音がして、やがてばたんと扉がしまる。


 あたりはすでにもう暗い。


 私以外、誰もその場にいなくなる。


 屋上に本格的な静寂がやってきた。

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