第66話
丹波が私の名前を呼び、私の席まできたことに二年三組の教室がなんともいえない気まずい雰囲気になった。
私としてはクラスじゅうの視線がびしばし刺さってとても痛い。まるで先ほどの教室の雰囲気のように、肌のおもてがぴりぴりしてくる。
ふだん注目されることに慣れていない私は、こんな瞬間がひじょうに苦手だ。肩身がせまく、お尻のおさまりがやたらと悪い。そんな感じだ。いたたまれない。
そんな私の気持ちになどおかまいなく、金髪のイケメン転入生は私の席の横に陣どり、とりとめのない会話を振ってくる。
昨日あのあとなにかあったかとか、今日も帰りはバイトなのかとかいうような、心の底からどうでもいい会話のオンパレードだ。
いったいなんだというのだ。この露骨さは。
私としてはいまいちこの転入生の目的がわからない。ゆえに対応に困る。
しかし、先に耐えきれなくなったのは私ではなく矢野のほうだったようだ。
「おい。てめえっ」
教室後方から叫んだ。
たしかに露骨に無視され、こけにされたかたちになっているのだ。このクラスのボスとしてはゆるしておけない。そんなふうに思ったのだろう。
あたりの机やらイスやらを蹴飛ばしながら歩いてくる。しかも綺麗にならんだ机の列を割って最短距離で。
私は席についたまま丹波の身体ごしに、その先でくり広げられている光景をじっと見つめてしまった。
矢野はすごい形相で私たちのいるところまでくる。
とうぜんおびえているのは私だけではない。
矢野の軌道上にいる席の子たちはみんな逃げるように道をあけた。その姿を見て、私はキリスト教徒じゃないが聖書を思いだした。
モーゼか、こいつは。
「おい」
私たちのすぐそばまできた矢野は、うしろから丹波の肩をにぎった。金髪のイケメンを無理やり振りむかせる。あいているほうの右手は腰の位置で硬くにぎられている。
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