第38話

 これにはさすがの転入生も絶体絶命だ。


 そう思った。


 なにせ数が違いすぎる。


「終わったな、てめえ」


 あざ笑うように転入生の背後の男がいう。形勢が逆転して興奮を抑えきれないようだ。見るからに色めき立っている。


 しかし。


 そう思ったのは、その男だけだったようだ。


「げっ」


 転入生の目のまえまで近づいた援軍のひとりが驚きの声をあげた。


 センターの先頭を歩いていたから、おそらくリーダー格の男だろう。がちがちの身体は縦にも横にもただただおおきい。その男がいきなり叫んだ。


「バカヤロー」


 その大声に私はびくっとしてしまった。


 リーダー格の大男は転入生のまえを通りすぎ立ちあがったヤンキーの目のまえまで歩を進めた。そして、その少年の頭をこづく。


「この金髪、丹波正太郎じゃねーか」


 どうやら転入生は有名人のようだ。あきらかに怖そうな暴走族のリーダーがおびえ、大声で説教を始めた。


「なんてことしてくれたんだ、てめーは。こいつはなあ、このあたりでもっともかかわっちゃいけない男だぞ」


 はあ? と思った。


 思いもよらないせりふすぎた。


 どういうことだ?


 転入生はそんなにすごいやつなのか?


 私は再度、転入生をじっと見つめた。


 その風貌からはぜんぜんそんなふうには見えない。むしろただの超イケメンだ。


 きょとんとしてしまったのは私だけではないようだ。


 おそらく怒られているヤンキーもおなじ表情をしていたのだろう。


「おまえ、ちょっとこっちこい」


 そういってリーダー格の大男に路地の入口まで引きずりだされる。


「おまえらはこのあたりでいったいなにをしていたんだ。ガキ相手のかつあげだけか? 金髪の丹波を知らないやつは、ただのもぐりだ。この街で調子こきたいなら、絶対にこの男とはかかわったらいけないんだ」


 なんだか、すごいいいようだ。


 しかし、そのようすはただごとではない。


 屈強な男がこれだけ本気でびびりながらいうのだから、全部事実なのだろう。

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