第36話

 腰が重く回転した。


 同時に。


 ヤンキーの拳が転入生の横っ面めがけて伸ばされた。


 しかし。


 それより速くおもいきり体重ののった転入生のパンチがヤンキーのこめかみにめりこんだ。


 静寂。


 空気が冷える。


 インパクトの瞬間、長く時間がとまった気がした。


 音が消えた。


 世界がとまる。


「ふっ」


 転入生が口をすぼめて息をもらした。


 空気の振動が同心円を描くように爆発した。


 殴られた男が縦に回転しながら飛ぶ。


 正確には頭が地面にたたきつけられ、足がうえにあがってくる。


 地面と顔面が火花がでるほど激しいキスをした。


 あっというまに五人目が片づいた。すべてのヤンキーが重なりあって地面に転がっている。


 私はあっけにとられた。


 とんでもない。


 その場に立っているのは金髪の不良ひとりだけだった。


 私は驚き、ただただその姿を見つめてしまう。


「先輩、こっちです」


 だしぬけだった。


 背後から声がきこえた。


 男というより男の子といった感じのきんきん声だ。


 そして同時にバイクが近づいてくる音もきこえた。


 停まった。


 私のうしろで。


 そこでようやく気がついた。


 転入生を囲んでいた不良は最初、六人いたはずだ。しかし、ケンカはいつのまにか五対一のかたちになっていた。


 おそらく五人のうちのひとりは、ケンカが始まってすぐに路地を抜け近くにいる仲間を呼びにいったのだろう。


 近くにいた私でさえ気がつかなかったのだから、ケンカのさいちゅうだった転入生も気がついていなかったに違いない。

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