第35話
そのまま転入生は曲げたひざを伸ばすように足をまえに蹴りあげた。
教科書どおりのきれいなまえ蹴り。それが顔を押さえてのたうっている最初の男の顔に刺さる。
くの字に折れた身体がバランスを崩す。
ひざから崩れ落ちた。
私の目のまえから遮蔽物が完全になくなった。
景色がクリアになる。三人目が片づいた。
しかしまだ転入生の動作は終わらない。足を蹴りあげたまま片足立ちをしている転入生は軸足にぐっと力をいれたようだった。
半回転する。
アスファルトに転入生の革靴がすれ、じゃりっという音がきこえた。
続いてのキックはミドルボレーのような蹴り。それがあごをえぐられた男のこめかみに刺さる。
横に飛んだ。
ひとり目の遮蔽物のうえに重なるように倒れこむ。
これで四人目。
「ああああっ」
転入生の右側にいた不良が体勢をととのえた。
低い位置まで落ちた頭をぐっとこらえて、身体をひねる。
立ちあがりざまに殴ろうとしているのだろう。にぎった拳を引いている。
しかし。
そんなようすも転入生の目にはうつっていたようだ。
転入生は足をおろさず、そのままあと半回転する。
私に対して背中がむく。横からは最後のヤンキーが拳をにぎって立ちあがっているところだ。
完全に背中がむいたところで転入生が地面に足をおろした。
下半身が固定される。重く立っていっさいぶれない。
しかし上半身の回転はとまらない。まわり続ける。しかも転入生は、いつのまにか拳をきつくにぎっていた。
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