第7話

 床掃除を終えた私は、逃げるように教室をでた。前方のドアにむかうまでの十数秒間がやけに長い。無音のなかで私の発する足音がやたらと響く。しずまり返った空間に矢野たち不良グループの笑い声がこだました。


 私は全身ずぶ濡れなのに、彼らの声はからからに乾いているようで、それがやたらと冷たく感じた。もしかしたらこの冷気は室内温度を二十八度にキープしてくれているエアコンのせいかもしれない。そしてこの乾いた笑いもエアコンで教室内の空気が乾燥していたからかもしれない。


 そんなことを考えた。


 どこにも救いのない無意味な現実逃避だ。


 廊下の景色は私の目にははいってこなかった。そんなよゆうがなかったからだ。


 ぽたりぽたりとしずくをたらしながら、一目散に私はトイレに駆けこんだ。つるつるすべる質感の廊下をできるだけ私はいそいで走ったが、走ったところで水滴が落ちないわけではない。私のとおった場所にはしっかりと、私の落とした水のしずくがたれている。


 床にみがき残しがあるといわれて、母が雇い主からどやされるかもしれないと思うと胸が痛んだ。


 これは私のせいなのに。


 かろうじてそれだけが罪悪感として胸に残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る