第8話

 トイレに逃げこむと個室にはいってブレザーとブラウスをいそいで脱いだ。


 ブレザーは水がしたたり落ちるほどだったが、ブラウスはそれほどでもない。わずかに水が染みているていど。うっすらとそのしたの肌を透かせているくらいだ。


 私は、ほっと安心した。


 体操着のTシャツとハーフパンツが切りきざまれてぼろ布化してしまっている今、制服までなくなってしまっては着るものがなくなってしまう。さすがに全裸で授業になどでられない。そんな姿で教室にいけば、きっと退学になる。


 両親を今の苦しい現状から救いだすすべがそこでついえる。それだけは避けたい。


 そうしたら残る道はただひとつ。トイレの住人になることだ。


 しかし、もしそんなことをすれば、制服が乾くまでこのまま一生トイレの個室からでられなくなる。それはそれで問題だ。授業をさぼったことに対して、あとでなんらかのおとがめがある。


 いちおう最悪の事態をさけられ安心した私は、そのしたの衣類もざっと安全確認をすませた。ブラウスが大丈夫ということは、ブラジャーもまず問題ない。下半身のスカートはうえからかぶさっていたブレザーが守ってくれたらしい。こちらはすそにわずかに水滴が跳ねているだけなので、そのなかのショーツもまったく濡れていない。


 こんな状況で興奮だってしているはずもない。


「よかった」


 思わず声がもれてしまう。


 とりあえず下着類がぶじでよかった。些細なことに心からのよろこびを感じる。私の感覚は、やはりどこか麻痺してるのかもしれない。


 それならば、やることをやらなければいけないと思う。


 便器にむかってブレザーの袖をしぼる。ウール素材に染みてしまった水を抜く。髪もしぼって、もと体操着だった布切れで軽くたたく。ぜんぜん乾いたなんてレヴェルに達しないが、これでだいたいオーケーだろう。

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